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俺だけのルールがある。
・薮が家に来る前には、事前に電話をしてもらう。
すべてを受け入れられるよう、こころを整えるために。
『えーっと、リフォームの案件は…』
だから、
ピンポーン
『?、はーい……やぶ!?』
こころを整えていない状態で 薮に会うと、
自分でも、どうなるか分からない。
『どうしたの!?ずぶ濡れじゃん!!』
「…いのお」
『いいから、早く、中!!』
薮を部屋の中に引っぱり、タオルを手に振り返ると、
ボーっと立ち尽くしたままの薮。
悲しそうな、困惑したような、不安そうな、
いろんな感情が ごちゃ混ぜになった、その青白い顔は見覚えがあって、
一瞬、あの時にタイムスリップしたような気がした。
薮に、「結婚する」と告げられた、
人生で 一番最悪なあの時に。
『や…ぶ…?』
「いのお、俺……離婚、した」
『り、こん?』
「……」
『りこん、って…』
「俺も、よく分かんなくて…。あいつ、浮気してたみたいで、離婚届置いて いなくなってた」
『…は?』
「親父、めちゃくちゃ怒って、"嫁に捨てられたなんて周りに知られたら恥ずかしいから、お前が愛想尽かして捨てたことにしろ"ってなって…」
それで…、それで…、と どもりながらうつむく薮は、
学生時代に たまーに見せていた、"緊張しいのやぶ君"の姿で、
『っ』
なつかしい想い出を手放さないよう、
俺は ぎゅうと強く、薮を抱きしめた。
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作者名:本田 | 作成日時:2017年10月9日 1時