No.78 ページ28
すぐに教室に帰ると渡辺が俺の席に座っていた。
「渡辺、邪魔なんだけど」
なんで俺の席に座ってるの、とため息を混じりに言う。
「ちょっ、お前どこ行ってたんだよ」
渡辺はさっきまで加藤さんと話していたらしく、ら
加藤さんもこちらを見ていた。
「……気が変わったんだよ。
彼女と付き合うことになったから」
「へえー。
……はあ!?
へえじゃねえよ、
今流しそうになっただろうが！
なんなのお前」
笑っていた顔から表情を一変させ、
渡辺は加藤さんに聞こえないよう、
小さく低い声で言う。
「……もしかして俺が言ったからか？
俺が言ったから――」
俺はそれを遮った。
「……渡辺、言っただろ。
俺がどうこうしようとお前が気遣うことじゃない」
向井と木ノ下さんはようやく帰ってきたようだった。
……そう、
木ノ下さんがたとえ向井を好きになっても、
俺には何も関係ない。
加藤さんの問いに、
告白されたと頷いた木ノ下さんを見て、
なぜかひどく苛立った。
でも、それをぶつける気はない。
……他人が言うことじゃないとか渡辺に言ったくせに、
俺は遠回しに、、
向井を好きになれば、
と投げやりに言っていた。
すると加藤さんが怒りながら木ノ下さんを連れていこうとして、
……俺は
「……木ノ下さんは、俺のことが好き？」
そう、尋ねようとした。
そして俺は、
木ノ下さんに好きだと言ってほしかった。
――それは聞けなかったけれど、
聞こうとしたことは心の中に残った。
……どうしてだろう。
――離れてほしくないと思った。
その考えに気付いて、
俺は本当に自分らしくないと自嘲した。
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作者名：いちご | 作成日時：2020年2月11日 11時
