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彼は少しずつ口角をあげて、目を見開いて言い放った。
「…殺さないよ。それよりもっと…、いや、なんでもない。」
含んだ態度に言い表せない恐怖が襲いかかる。
それに、殺さないなんて言葉信用出来ない。
早く、何とかして逃げないと。
「ここでAを殺しても人質にしても、僕たちは全員皆殺しにされる。だから今回は逃がしてあげるけど、ひとつ命令がある。」
ナイフを突きつけたまま私を離した彼の格好を見て、私は彼が言った言葉の意味を理解した。
顔を見ただけでは気が付かなかったけれど、彼のこの格好は戦争で捕まった敵軍の兵士の格好。
…いわゆる、捕虜というやつだ。
だから私が父親なんかに襲われた事を言ったら、誰彼構わず全員殺される、と。
「…わかった。誰にも言わない。」
王族の娘というだけで権力はあるけれど、戦争の事をどうにかする事は出来ない。
…でも、国民や目の前の彼が苦しんでいるのに、ただ王の家に産まれただけでこうも贅沢に生きている。
少なからず罪悪感はある訳で、彼の話を同情なしに聞くことは出来なかった。
…捕虜、だなんて、酷い扱いを受けているんだろう、
考えただけで涙が溢れそうになる。
彼は顔を歪ませた私を見て、蔑む様に見下ろして静かに言った。
「…何不自由なく生きていて、僕たちの気持ちなんて分かるわけないのに同情しないで。」
「…ごめん、なさい。」
謝るしかなかった。
いきなり襲われて彼が悪くない訳ないけれど、こんな状況じゃ誰も責められない。
「…捕虜の解放。分かったら部屋に戻れ。僕はいつでもAを見てる。」
独特の眼力で真っ直ぐに見つめられる。
目を見てすぐにわかった。
本当は彼は優しい。
…戦争が彼をこんな、残酷にさせたんだ。
静かに背を向けた彼は、私が呆然としている間に姿を消していた。
「っ、名前！聞かせて…」
はっとして、急いでその場で言うけれど周りには誰もいない。
「…ギョンス。」
どこからともなく声が聞こえた。
この低くて優しい声は、さっきの彼のものだ。
「…ギョンス、」
ゆっくりと口に出して呼んでみても、誰も何も反応を示さない。
きっと彼は行ったんだろう。
…いつか、戦争が終わって彼が母国に帰って幸せになれたら、私の事も許して罪を償わせてくれるだろうか。
そんな考えが甘いのかも知れないけれど、少しでも彼が幸せになるように願った。
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ぼぷぴ(プロフ) - 貴方様が書くお話、本当に面白いです…！！今回のギョンスのお話も最高でした…いろんな意味でドキドキが止まりませんでした！！これからも応援しています！ (2020年3月24日 16時) (
レス) id: eb25947e96 (このIDを非表示/違反報告)
ゆう。(プロフ) - 1話1話がすごく読み応えがあって面白いです。シウミンさんの物語とスホさんの物語が個人的にすごく好きです。これからも作者さんのペースで更新して頂けるとうれしいです。 (2020年3月17日 3時) (レス) id: 622a208a12 (このIDを非表示/違反報告)
猫わかめ - 今日初めてこの小説を見つけたのですが、とてもハマって一気に読んじゃいました。どれも狂気的で特にセフンくんのは結末に鳥肌がたちました。すごく面白かったです。これからも頑張ってください！ (2020年2月27日 1時) (レス) id: d5ef40128c (このIDを非表示/違反報告)
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作者名：nel_ | 作成日時：2020年2月2日 1時
