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15.食べさせてよ ページ18

それから私たちは、シリアスな空気を取り払って、できるだけ明るい話題で会話を続けた。


本当にくだらないことばかりだ。


趣味は?


好きなものは?


よくある、初対面の人が会話を続けるために問う質問みたいな。


それでも、話し上手なさかたさんとなら、まったく単調にならなくて本当に楽しかった。


そんな会話を、一時間近く交わせる程度には。



「もう一時間経つんですね」


「え、あ、ほんまや! うらさん一時間も部屋の前で待ってんねんな……」



苦笑いを浮かべる私と、特に気にする訳でもなく快活に笑うさかたさん。


一頻り笑った後、さかたさんは宙を仰ぎながら声を漏らした。



「あー……お腹空いたなぁ」



時計は12時近くを指している。


そろそろお昼の時間だろう。


私がここに留めてしまったから、お昼ご飯は食べれていないはずだ。



「お昼ご飯、食べてきてはどうですか?」



私がそう促すと、さかたさんは「うーん……」と渋い顔をして視線を逸らした。



「……もう一ヶ月くらい、食事してないねん」



「えっ!?」と声を上げそうになって、思い出す。


そうだ、彼らは人間じゃない。


人外なんだ。


食事の回数は少なくてもいいのかもしれない。


でも、それでも。



「ちゃんと食べないと大変なことになりますよ……? 食べてください……」



切実に、そう思った。


その言葉を聞いて、さかたさんは宙を仰いでいた視線を私に向かって下ろす。



「……食べたく、ないねん」



2つの紅玉が、しっかりと私を縫い付けた。



「それでも、食べないと。身体おかしくなっちゃいますよ」



人外の食生活なんてよく分からない。


それでも、食べないことが身体に良いわけがない。


諭すように、さかたさんに語りかける。


すると、さかたさんは真っ直ぐに私を見つめながら口を開いた。



「じゃあ、Aが食べさせてくれへん?」


「っ、へ?」



唐突な提案に、素っ頓狂な声が漏れる。


さかたさんは席を立ち、前に一歩踏み出した。


私との距離が、彼の一歩分近くなるーー。



「……っ、きゃ!?」



口から出たのは、可愛くない悲鳴のような声。


耳に届いたのは、ギシッとベッドのスプリングが軋む音。


背に感じたのは、柔らかなベッドに押し付けられる感覚。


鼻腔を擽ったのは、どこか高潔な香り。



ーー私は、ベッドに押し倒されていた。

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ちょこ - 更新が止まってます!戻ってきてください!続き楽しみに待ってます!(´;ω;`) (2019年12月11日 1時) (レス) id: 1b1d47c664 (このIDを非表示/違反報告)
はる - 人外の作品大好きです!これからも更新無理のない程度で頑張ってください! (2019年8月11日 21時) (レス) id: 9386fcb447 (このIDを非表示/違反報告)
関西風しらすぅ@坂田家 - うわ…坂田さん可愛い…志麻さんどこいった…好きやわ…人外もんはいいゾ〜 (2019年7月6日 17時) (レス) id: f34e486c2f (このIDを非表示/違反報告)
風空 - 吸血鬼もの大好きです!また毎日の楽しみが増えました(*´ω`*)更新楽しみに待ってます!自分のペースで頑張ってください! (2019年5月27日 22時) (レス) id: 7d8b5dcb68 (このIDを非表示/違反報告)

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作者名:甘夏れもん | 作成日時:2019年5月26日 20時

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