304：弾けて刹那 ページ30
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『そんな重い議題を考えながら生きてない』
タイムラグも無く、姉はキッパリとそう言った。
「じゃあ今考えてくれ」
どうしても気になって追撃すると、あからさまに面倒くさそうに顔を歪めてスイカにかぶりつく。
「ちゃんと考えてるか？」と聞けば『考えてる考えてる』と。同じことを繰り返すのは大抵そうしてない時だって聞いたことあるぞ。その証拠に頬袋は膨らみを増すばかりだ。
『んむ』
「悪ぃ、押したくなった」
『今はしまっとけよ好奇心』
揺らしていた足をピタリと止めて口内を空にしてから、姉は俺に苦言を呈す。聞いてるのかって？聞いてる聞いてる。
また一口果肉を食んで咀嚼音が響く。平常心を保ちたいものの、夜空を仰いで喉が上下する様から目が離せない。
『大切な人を守りたいから、かな』
──姉らしい解答だと思った。その大切な人という枠組みに、誰が含まれているのかは置いといて。
『まあそれってつまり言い換えると、
焦凍とヒーローになりたいからなんだけど』
「え…？」
『え、じゃないよ忘れたの？』
小指を立てた右手が視界の端で揺らされる。結んだ時とは随分細くしなやかになった指。自分のは骨ばって、彼女より2回りほど大きい。
いつまでも子どもではいられないけれど、約束は変わらない。
「……忘れてない…」
ツンとした鼻の痛みが目の奥で熱に変わる。
視界にかかった霞の冷たさが夢じゃないと教えてくれる。
私は拭いてやらないからね。大人びて見えた横顔にそう告げられて、自分の手で目元を拭った。
『あ、一応言っとくけどあんたの為じゃないからね』
「…？」
『双子でヒーローってほとんどいないじゃん？だから駆け出しでも絶対注目の的になると思うんだよね〜！』
悪戯っ子のような笑みを浮かべる姉は、どこまでも打算的だ。
『焦凍は私のために、せいぜい良いダシになるんだよ』
──ここまで考えられるAだから、俺とAを置き換えられることもきっと分かってる。
「そっちこそ、手加減するなよ」
浅葱色を捉えて微笑むと、姉は鼻を鳴らしてそっぽを向く。縁側に下ろした足が落ち着きなくゆらゆらと揺れている。＿当たりだったようだ。
自分の夢を叶えることが、片割れの存在価値を世に知らしめることになる。
片割れが居ることが生きる理由であり、死ねない理由。そして、自分を殺さない理由。
こんなにも強かで、けれども暖かい目標は、きっと俺たちにしか見つけられない。
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弓月有無％(プロフ) - 完結おめでとう御座います！！轟家の結構読んで来ましたが、初めてのタイプで新鮮で楽しかったです。最初こそ夢主ちゃんが好きだったのですが、成長などみていくに連れ段々双子が好きになって行きました。題名当たってて嬉しかったです。これからも応援しております！！ (2024年7月15日 1時) (
レス) id: 1ab55170b6 (このIDを非表示/違反報告)
つぎはぎウルフ(プロフ) - ミルフィーユさん» 私だからこそ書ける轟家、双子というのを試行錯誤して、その魅力を感じ取ってもらえたことがとても嬉しいです。お気持ちはありありと伝わりました。こうして目に見える形で伝えてもらえて光栄です。読了ありがとうございました！ (2021年1月26日 5時) (レス) id: 845ea04d4f (このIDを非表示/違反報告)
ミルフィーユ - 完結おめでとうございます。とてもとても面白かったです。言葉の選び方やショートとホムラの心情の変化など、他の方の作品とは一味違っているのがいいなと思いました。拙い文章なので、上手く伝わっているか分かりませんが、大好きでした。 (2021年1月14日 3時) (レス) id: 9176ab7d5f (このIDを非表示/違反報告)
つぎはぎウルフ(プロフ) - しいさん» ずっと前から「こうしよう」と決めていたお気に入りのラストなので、そう言ってもらえて嬉しいです！読了ありがとうございました！ (2021年1月9日 22時) (レス) id: 845ea04d4f (このIDを非表示/違反報告)
しい - 終わり方が最高です(感涙) (2021年1月8日 19時) (レス) id: aeab29cc30 (このIDを非表示/違反報告)
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作者名：つぎはぎウルフ
| 作成日時：2020年12月6日 16時
