277：スケープゴート・フィリア ページ2
.
空の青さが全てを浄化してくれるなら良かったのに。
海の残滓を握りしめても、弟はどこにもいない。喪失感に占領された頭は冷静さを取り戻してくれない。
手首に付けられた患者の印が、自分がどれだけ無力な存在かを象徴しているようだった。
＿＿ああ、まただ。
自分の掌の肌色と手すりの白の違いが分からない。活力の無いグレーに見える。高く澄んだ空の青にも、フィルターが掛かっているみたいに色褪せていて。
項に伝う汗も相まって、二度と感じたくない既視感だった。
もういっその事、全部黒になってしまえば楽になれるんじゃないか？そう心付いて手すりに身を乗り出す。ミニチュアサイズの人や車が目下に広がり、蠢いている。下から吹き抜ける風に目を閉じて、体の力を抜いた。
「何やってんだよ！！」
強い力に引き寄せられがまま、硬い銅板に頭を押し付けられる。それもデジャブだった。海ではそんなつもりは無かったし、爆豪くんはもう居ないけど。
そう考えると、漠然とした寂寥感が私を襲う。
『生きた心地がしなかったの』
頬の高い位置を髪色と同じ色に染めて、息を荒らげている彼に正直に白状した。
確か弟のクラスメイトである彼は、こちらの気を汲み取ったのだろう。その短い睫毛でも瞳に影を作っている。
「柊、だよな」
彼のように名前を確認したかったけど、出来損ないの脳に検索をかけてもヒットしない。ただ、鉄哲くんがライバル視していたような、そんな曖昧な検索結果が浮上する。
『…ごめん、誰だっけ』
「悪ぃ、一方的に知ってた。俺はA組の切島」
『…切島くん』
教えてもらった名前を反芻する。記憶に刻まれた気はしなかった。
いつもならこんな失礼をしないよう脳内に書き留めるが、今人の気持ちを慮れるほど私の心には余裕が無い。
手すりを背もたれ代わりにして、宙を仰ぐ。
『私から焦凍を奪っていい奴なんていないのに』
体に中に空いた穴を野ざらしにしないように、気丈な言葉を貼り付けて理性を保つ。でもやっぱり 空けられた穴が大きすぎて、それを埋められるのも焦凍しかいないと悟った。
しかしある事にはたと気づいて『はは』と水気の無い笑みが零れる。
『モノみたいでやだなぁ、この言い方』
＿いつかそんな話をしていた友人の意識もこの世界には存在していなくて、鼻の奥がツンと傷んだ。
この小説をお気に入り追加 (しおり)
登録すれば後で更新された順に見れます 1761人がお気に入り
お気に入り作者に追加
この作品を見ている人にオススメ
この作品を見ている人にオススメ
「ヒロアカ」関連の作品
違反報告 - ルール違反の作品はココから報告感想を書こう！(携帯番号など、個人情報等の書き込みを行った場合は法律により処罰の対象になります)
弓月有無％(プロフ) - 完結おめでとう御座います！！轟家の結構読んで来ましたが、初めてのタイプで新鮮で楽しかったです。最初こそ夢主ちゃんが好きだったのですが、成長などみていくに連れ段々双子が好きになって行きました。題名当たってて嬉しかったです。これからも応援しております！！ (2024年7月15日 1時) (
レス) id: 1ab55170b6 (このIDを非表示/違反報告)
つぎはぎウルフ(プロフ) - ミルフィーユさん» 私だからこそ書ける轟家、双子というのを試行錯誤して、その魅力を感じ取ってもらえたことがとても嬉しいです。お気持ちはありありと伝わりました。こうして目に見える形で伝えてもらえて光栄です。読了ありがとうございました！ (2021年1月26日 5時) (レス) id: 845ea04d4f (このIDを非表示/違反報告)
ミルフィーユ - 完結おめでとうございます。とてもとても面白かったです。言葉の選び方やショートとホムラの心情の変化など、他の方の作品とは一味違っているのがいいなと思いました。拙い文章なので、上手く伝わっているか分かりませんが、大好きでした。 (2021年1月14日 3時) (レス) id: 9176ab7d5f (このIDを非表示/違反報告)
つぎはぎウルフ(プロフ) - しいさん» ずっと前から「こうしよう」と決めていたお気に入りのラストなので、そう言ってもらえて嬉しいです！読了ありがとうございました！ (2021年1月9日 22時) (レス) id: 845ea04d4f (このIDを非表示/違反報告)
しい - 終わり方が最高です(感涙) (2021年1月8日 19時) (レス) id: aeab29cc30 (このIDを非表示/違反報告)
作品は全て携帯でも見れます
同じような小説を簡単に作れます → 作成
この小説のブログパーツ
作者名：つぎはぎウルフ
| 作成日時：2020年12月6日 16時
