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四十九躍 笑って「行ってきます」を言うべし ページ48

『行って、…絶対帰ってきて下さい姉上』

確かにそう言ったのは紛れもない沖田だった。土方はそんな彼に驚愕の意を持って話しかける。

「総悟、何言ってんだ?だってお前…」

誰よりもこいつの側で支えたい筈だろ

「仕方ねェでしょ」

そう言いかけるが沖田はすぐに言葉を遮り、土方の方へ顔を向けた。その顔はそれ以上でもそれ以下でもない呆れ顔で半ば気だるげに口を開く。

「姉上が治るにはそれしかないし、俺ァまた姉上と学校通いてェし。当のアンタは鬼の副委員長ともあろう者がいつにもなく縮こまるしな」

沖田は一拍置いて下げた竹刀を肩に担いで「…それに」と土方の目を見詰め言葉を続ける。

「少しだけアンタの気持ちも理解できたからな。姉上を大切に思ってる事ァ…、俺も同じでさァ」

沖田の言葉には今迄の黒く歪んだ嫌悪感は語彙にも表情にも含まれておらず、どうやら完全に吹っ切れた様だった。いや、彼だけでなく恐らく自分も…と、土方は思う。

沖田は今日のこの機会を持って自分と本気でぶつかろうと本音を吐いてくれたのかもしれない。本音を吐かせたのかもしれない。

「…そうかよ」

土方は汗で濡れた前髪を搔き上げるとミツバと向き合った。彼の様子に若干驚く彼女を見下ろしながらおもむろに「…あー、」と口を開く。

「…その、ミツバ。俺も、お前と同じだ。俺もお前と…、やっぱ離れたくねェ。でも、早く一緒に学校に行きてェのも本音だ。…だから、俺ァ何年かかろうが待ってるから…お前を」

普段素直にこういう言葉を使わないせいか土方は無駄に口下手になり顔を赤らめるが、真っ直ぐ彼女には届いていた。ミツバは彼を見詰めたまま顔を歪ませて今にも泣き出しそうだったが、ぐっとそれを我慢しこれ以上ない程の幸福に満ちたかの様に微笑んだ。

「…はい、待っていて下さい十四郎さん…!」

****

そしてその時はあっという間に経ち、ついにミツバが日本を発つ日を迎える。見送りには銀八に沖田、信女、高杉という昔から馴染みがあるメンツが肩を並べた。

「ミツバさん、早く元気になって」

「早く治るといいなミツバ姐」

信女と高杉はそれぞれ見送りの言葉をかける。沖田も「行ってらっしゃい姉上」と言い、次に銀八が声をかけようとすると彼女はある小さな箱を渡してきた。

「これをあの人に渡して貰えますか?」

未だキョトンとする銀八に半ば押し付けてミツバは思い切り笑った。その場にいない彼にも笑いかけるように。

「行ってきます…!」

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白玉(プロフ) - 面白すぎる..さすがプリン!!ww (2017年10月1日 8時) (レス) id: d7b0293ef7 (このIDを非表示/違反報告)
プリンちゃま(別垢)(プロフ) - みかんさん» みかんさん、ありがとうございます!『面白い』と評価して下さってマジで嬉しいです!!これからも応援ヨロシクお願いします★ (2017年4月8日 20時) (レス) id: 5afe51ca08 (このIDを非表示/違反報告)
みかん - とっても面白かったです!沖田と神楽の所が特に面白いです!これからも更新頑張ってください!応援しています! (2017年4月8日 19時) (レス) id: 7cb491045b (このIDを非表示/違反報告)

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作者名:交差点プリン | 作成日時:2017年3月31日 18時

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