四十六躍 弟狼の心の雨は遅れて現実にも降り出す ページ45
彼女の言葉に沈黙が落ちる病室。銀八は未だ震えているミツバにゆっくり一つ一つ言い聞かせる様に訊ねた。
「…詳しく、教えてくれるか?さっきの…お前の言葉の意味を」
彼女は彼に身を委ねたままコクッと小さく頷き、静かに語り出した。
「実は…、」
それと同時に窓辺から吹き込む風が穏やかに二人の頬を撫でるが、話が進むにつれ銀八の表情は穏やかになるどころか固く眉間を歪める獅子の様になっていった。
「………っ!!」
全てを聞く頃には彼は無意識に勢いよく椅子から立ち上がっていた。ガタッという音を横目にミツバは最後に彼の顔を儚い表情で真っ直ぐ見た。
「先生、…一つお願い、聞いてくれますか?」
****
「何でアンタはいつまでも姉上を苦しめるんでィ!」
パァンッと竹刀と竹刀がぶつかり合う。沖田は一瞬の隙も作らずどんどん土方に打ち込んでいく。土方は一歩躊躇し、額から透明な水滴が伝う険しい顔で呼吸を整えながら先程の沖田の言葉を思い返す。
(…総悟の奴)
沖田も躊躇して間を置く。そして改めて彼の瞳へ捉えんばかりの眼差しを向ける。
「…姉上はいつもテメェを見てた。昔からずっと…、幼馴染のアンタだけをガキの頃からずっと見ていた」
そして微かに沖田の瞳が哀しく歪む。何か癒しきれない傷を堪える様に。
「…だが、諦めようともしてた。まともな生活が普通にできない事はあの人も知ってて、『叶わない想いだとしてもこっそり想わせて』と寂しそうに笑って…、それでも姉上の心は変わらなかった」
沖田は降ろした竹刀を強く握り、「何でだと思いやすかィ?」と低いトーンで彼に問いかける。
「それはアンタに誰よりも幸せになって欲しいからだ。アンタと同じ気持ちだって気づいても違う奴と前見て新しい恋をして欲しかったからだ。…アンタに、自分を忘れて欲しかったからだ…」
土方はやっぱり同じだ…と柄にもなく感じ入る。同じなんだ、あいつも俺も…、っと。
沖田はギリッと歯を食い縛り、再び土方に牙を向けるように襲いかかった。慌ててそれを打ち堪える。
「なのに何で…アンタは姉上から離れない‼アンタだって分かってた筈だっ!姉上がアンタを忘れようとしている事に!」
ギリギリと竹刀の物打ちが音を立てる。沖田は土方に竹刀を交わらせたまま顔を近づけ睨みあげる。
「土方さん、アンタは姉上の一歩一歩進もうとしている道の邪魔になってるんだ。
…だから何故姉上の邪魔をするのか答えろ、土方」
雨は今しがた降り出す。
20人がお気に入り
感想を書こう!(携帯番号など、個人情報等の書き込みを行った場合は法律により処罰の対象になります)
白玉(プロフ) - 面白すぎる..さすがプリン!!ww (2017年10月1日 8時) (レス) id: d7b0293ef7 (このIDを非表示/違反報告)
プリンちゃま(別垢)(プロフ) - みかんさん» みかんさん、ありがとうございます!『面白い』と評価して下さってマジで嬉しいです!!これからも応援ヨロシクお願いします★ (2017年4月8日 20時) (レス) id: 5afe51ca08 (このIDを非表示/違反報告)
みかん - とっても面白かったです!沖田と神楽の所が特に面白いです!これからも更新頑張ってください!応援しています! (2017年4月8日 19時) (レス) id: 7cb491045b (このIDを非表示/違反報告)
作品は全て携帯でも見れます
同じような小説を簡単に作れます → 作成
この小説のブログパーツ
作者名:交差点プリン | 作成日時:2017年3月31日 18時