甘すぎます《紫》２ (ページ10)

今日:2 hit、昨日:0 hit、合計:64,170 hit

▽ 55 ページ10

.

3月1日

まだまだ寒くて冷たい風が吹く今日、卒業式を迎えた。

担任の先生も、親も、クラスメートもみんな大泣きしてた。

もちろん、私も泣いてしまった。

「なぁA、見てこれ！ボタンなくなってもーた！」

なんて嬉しそうにはしゃぐしげ。

『ボタンないのだっさいなぁ(笑)』

「おうおう、ひがむなひがむな～」

『ひがんでへんわ』

こんな風にふざけ合えるのも今日で最後かも、と思うと悲しくなる。

小さい頃からずっと一緒で、離れられない存在だったけど

さすがに大学は別々。

私は兵庫の大学で、しげは東京の大学に進学。

寂しなるなぁって呟いたら、

嫌でも定期的に会うやんけって軽く返された。

まぁ、確かにお隣さんやし、帰省する度に顔合わせることになるんやろうけど…

『しげ』

「なに？」

『昨日はありがとね』

「なにが？」

『薔薇の葉っぱ！』

「なんのことや」

ボタンのない制服に付けられた花を触りながらそう言うしげは、ほんとに不器用だと思う。

『…ほんまにありがとう、大毅』

「……なんやねん」

少し笑って、頭をぐしゃっと撫でられる。

『ちょ、』

「…もう卒業したんやで」

『え？』

「もう高校生やないっちゅーことや。はよ行ってこい」

しげに笑顔で背中を押され

そのまま足を前に進めた。

走り続けた。

濵田先生に会いたい。

最後に一度でいいから、

会って、伝えたい。

.