ニジュウワ ページ20
庵崎さんは浅野くんの方に振り返る。
「待ってた」
「ごめん、先に帰ってくれていても良かったのに」
「……そっか」
それだけ言って立ち去ろうとする。
呆気に取られた顔をした浅野くんはすぐに焦りの表情を見せて制服に包まれた腕を掴む。
「って、何で僕たち盗み見してるの？」
「いいじゃん、面白そうだしさ」
僕にとっては、全然面白くないけど。
「ま、待て！誰が帰れと言ったんだ」
「あさのくん」
「今のはそういう意味じゃない……」
「そうなんだ」
「そうだ」
イタチごっこみたいな会話に笑いがこみ上げる。
何て面白い二人なんだろう。
それにしても、何故浅野くんが庵崎さんと一緒にいるのか。
会話の内容からこれから帰るみたいだけど……。
やっぱり面白くない。
「渚くん」
「……」
「渚くん？」
「！ど、どうしたの」
「…………」
考え事に没頭していた僕を訝しげに覗き込むとニヤリと口の端を歪ませる。
「尾行する？」
さ、流石にそれは。
とうとうカルマくんは人の道から外れるようだ。
「人の道に外れる訳じゃないけどさ、気になるじゃん？あの完璧な生徒会長サマが素性の分からない不思議転入生と一緒に下校なんて」
「まあ」
「因みに、庵崎さんの家はどこら辺なんだ？」
「林の中」
「は、林の中……」
困惑する浅野くん。
それに影で笑いを堪えるカルマくん。
大爆笑だ。
不思議なことに人がすぐ隣で笑うことを堪えているのを見ると自分まで釣られてしまうもので。
二人の男子中学生が街路樹の木陰で笑いを堪えるという変な絵になってしまう結果になった。
「……つ、付いて行こ、んっ、行こうか」
「ふっふぅ」
僕たちは尾行を決意した。
これから使うかもしれない暗殺技術の一つを予習するという意味合いも含めて。
庵崎さん。
何を考えているんだろう。
僕みたいな凡人にはさっぱり分からないよ。
感情さえなければ、この状況に胸を痛めるなんてこと無かったのに。
いくらそう願っても僕は人間だから感情を歪ませることは出来ないけれど。
せめて鎮まって、自分自身でさえ気付けないくらい小さくなって。
そのまま溜息と一緒に吐き出してしまいたい。
「家まで送るよ」
「別に大丈夫」
「待たせてしまったのは僕だ」
「暇だったから」
浅野くん相手だとすごく喋るなぁ。
慣れたと思っていた僕に対してだって話しかけられたり用事がなければ喋らないのに。
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作者名：リン | 作成日時：2018年2月15日 7時
