ジュウヨンワ ページ14
「あ！庵崎さん、おはよう！」
次の日。
ちゃんと教室に来ていた庵崎さんに声を掛ける。
「……渚？」
「うん、渚だよ。おはよう庵崎さん」
「おはよう」
机の上に座っているのは変わらないけど、昨日の一件から僕を認識してくれるようになった。
どうやら今まで無視していた訳ではなく、自分に関係していると認識していなかったみたいで。
呼び掛けられても雑音としてしか理解していなかったらしい。
一度会話を交わせば、自分に向けられる言葉を意識できる。
だから、今の僕の声はしっかり庵崎さんの耳に届いてるってこと。
僕はちょっとした優越感に浸った。
「ちょちょちょいっと渚くん？」
「何？中村さん」
「何じゃないよ！いつの間に仲良くなったの！？」
ほら、みんなは知らない。
僕だけが知ってる庵崎さんのこと。
「あはは、僕には分からないや」
今は、今だけは笑って誤魔化させて欲しい。
いつの間にか来ていた前原くんたちも加わってもみくちゃにされる。
ｶﾞﾗｯ
「おっ、庵崎さんじゃ〜ん。おはよ〜」
「……」
「え〜？また無視とか冗談キツいよ〜」
「……」
いつもと変わらない態度にめげないカルマくん。
もしかして、庵崎さんのこと好きなのかな？
心の中で黒い感情が渦を巻く。
「え？カルマにはあの態度ってことは愛想いいのは渚にだけってこと？」
「カルマくんおはよう」
「あぁ、渚くんおはよ〜」
昨日と同じように奇麗な顔にヘラっとした笑みを浮かべる。
穏やかで心の和む会話……のはずなのに心中は荒れまくっている僕。
いけないなぁ。
「懲りないね……カルマくん」
「まあね」
知ってる。
カルマくんは負けず嫌いだから庵崎さんに突っかかってるだけだって。
知ってる……けどモヤモヤする。
あ、
「庵崎さん？」
彼女は上靴と靴下を脱いで脚を伸ばして、器用に鍵を外すと窓をガラリと開け放した。
「へえ〜、庵崎さんって意外と足癖悪いんだね」
「……？」
「やっとこっち見たね」
え？
今のって、カルマくんの言葉に反応して振り向いたってことなの？
「渚、」
「えっ、ああ、うん？どうしたの？」
「寒い、ね。今日」
寒い？
まだ4月だけど……。
「もしかして庵崎さん風邪なんじゃ、」
「……違う」
「いっ、一応保健室行こう」
「大丈夫」
僕は庵崎さんが熱を出しているのかと思ってとても焦っていた。
だからきっと気付けなかったんだ。
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作者名：リン | 作成日時：2018年2月15日 7時
