ジュウキュウワ ページ19
「……雨」
ざあざあと降る雨粒。
それを掌に収めようとする庵崎の手は、冷たさに震えていた。
春先のはずなのにその手は真っ赤にふやけて感覚を失っている。
中学校からさほど離れていない公園。
雨が降っているからか誰もいない。
庵崎はそんな公園のど真ん中で透明のビニール傘を差す。
「あ、」
みんなが出払った放課後の教室にいつからか響き出した雨音で僕は我に帰った。
カルマくんと暗殺の作戦を練っていたら、随分時間が経ってしまったみたいだ。
出し尽くして絞り出せない知恵に頼るのはもう止めて大人しく帰ろうと腰を上げる。
「カルマくん?」
「もう帰る?」
「帰ろうか」
本当はテスト勉強をしていたんだけど。
いつの間にか作戦会議になっちゃった。
……それにしても、
「テスト、上手くいくかなぁ」
「……あのタコ、無駄に教えるの上手いからね」
どこか呆れたように笑う。
この前の出来事からカルマくんの性格は大分丸くなったように思うのは僕だけ、かな?
元々普段は穏やかな人物であったことには変わらないんだけど……。
それが殺せんせーのおかげだけじゃないことも、僕にはちゃあんと分かっていた。
カルマくんとは昔から一緒だったから、
分かるよ。
「ね、カルマくん」
「何が?」
ううん、何でもない。
E組からの帰り道、ぬかるんでいつもより歩きにくい坂道を下る。
その間もずっと会話は途切れることはなく作戦会議の続きをしていた。
「そう言えばさぁ、庵崎さんの暗殺ってまだみんな見てないよね〜」
俺たち含めて。
カルマくんはそう言ってへらっと笑う。
「……そうだね」
体育どころか座学さえ出席率は低い。
彼女は一体どんな暗殺をするんだろう。
坂を下り終えて少し歩くと公園があるのだけれど、そこに一人でぽつんと立っている人影があった。
透明のビニール傘を差して手を前に伸ばしたまま微動だにしない。
「何か不審者がいる?」
「……?あれ、庵崎さん?」
「えっ」
目を凝らして見れば確かに白髪。
女子用の……椚ヶ丘中学の制服。
いつも彼女は誰よりも真っ先に帰宅する筈なのに。
「声掛けてみる?」
「えっ、いや、何か考え事してるみたいだしもう行こう?」
「庵崎さ……「庵崎さん」
え
公園の裏口にあたる所から出て来た声の主は
「……浅野くん?」
生徒会長の浅野くんだった。
「……どういうこと?」
カルマくんの言葉が消えた。
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作者名:リン | 作成日時:2018年2月15日 7時