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可愛いと笑えば、いよいよ不服そうにする千切君。男に可愛いは避けるべきだとよく言われるが、しかし確かに思わず言ってしまう気持ちも分かってしまう。私は意図的ではあるが。
「かわいくは無いだろ……」
『そうだね〜、千切君はかっこいい』
「………それ、本気か?」
『うん、本気だけど』
千切君は、本人も認める程の中性的で綺麗な顔立ちをしている。見た目は可愛らしい方に寄るが、しかし性格も男らしいし、試合等を観戦していても普段はどちらかと言えばかっこいい印象を受けるのが本音だ。
そう思い素直に零した私の言葉を拾って、千切君は大きな目を何度か瞬かせた後、恐る恐るといった様に私をまじまじと見つめる。本気も何も、事実だろうと不思議に思いながら笑顔で彼の質問を肯定する私を数秒見つめて、彼はそっと私から顔を逸らした。
「やっぱちげーか」と小さく呟いた彼の言葉は、口元に手が当てられているせいでくぐもって聞こえづらかったが、何せ彼の声がよく通るのもあってか聞き取れてしまった。
が、気恥ずかしそうに薄く赤く染まった耳を見て、聞こえていなかったフリをする。実際、意味がわからなければ聞こえていてもいなくてもそんなに変わらない。
「……お」
『? 御影君………あらら』
私から視線を逸らして横を向いていた千切君が、不意に何かを見つけたのか小さく声を漏らしたのを聞いて私も一緒になってそちらを見遣れば、そこにあったのは御影君の姿で。
こちらに気付いていないのか、気付いているが一々反応する気力も無いのか。あっという間に私達の横を通り過ぎて、その背中が段々と小さくなる様子に気圧されながらも、見えなくなるまで静かに二人して見守る。
『何時の間にか隈が……眠れていないのかな』
彼が角を曲がり姿が見えなくなってから、その随分と生気を失った顔を思い出して、大きな目の下に色濃く出来た隈に内心驚いてしまう。一日二日程経った程だと思うのだが、この少しの間でそこまでの隈が出るとは。余程気に病んでいるのだろう。
何かしてあげた方が良いだろうかと考えては、下手に贔屓している状況になるのではと頭を悩ませる私を見兼ねたのか、千切君は言いづらそうに口ごもりながら「A」と私を呼ぶ。あまり元気には聞こえない声のトーンだ。
「ぁ〜………ホントは複雑なんだけど、そうは言ってられねーよな………はっず、心狭いな俺」
何とも言えない笑顔を浮かべる彼に、小さく首を傾げた。
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作者名:信楽 | 作成日時:2022年12月25日 2時