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そんなに遅れていただろうか。遅れていたかもしれない、行く先々で何かしら起こしている訳だし。態々探しに来てくれてありがとうございます、と頭を下げれば彼は狼狽えて手を左右に振りながら「き、気にすんなって！」と焦っている様子だ。
そのまま、自分達の部屋まで案内してくれるらしい彼に着いて行こうとした矢先。チラチラとこちらの様子を窺っては目が合うと恥ずかしそうに逸らしていた彼は、何かを決心したのか手をギュッと握り込む。
「わ、悪いんだけど……ホントに、嫌だったら断ってくれればいいから握手してみても、良かったり……？」
『良いですよ』
「！ あ、りがと……マジか、嬉しい」
『良かったです』
そして、目を閉じてバッと私の目の前に手を差し出す。勢いの割には自信無さげな様子にクスクスと笑いながらも手を取れば、彼は顔をこれでもかという程真っ赤にしながらも酷く嬉しそうに笑みを浮かべた。何だか悪い気はしない。
『繋いで行きますか？』と問うてみれば、手を振り払って焦り出す彼が中々に面白かったりする。私って凄い。
「あと一つ、あんだけどさ」
『はい』
「ずっと学校のままとかじゃ辛いだろ。……だから、素の性格でも……俺は全然気にしねぇし。俺の前だけでも良いとか………あ〜、やっぱ無理か？」
『……ううん、出来るよ』
目を伏せ、手を組んでドキマギとした表情でそう告げる彼に思わず足を止めた。全く関わりが無かった筈なのに、私の猫被りを見抜いていたらしい彼に対してどう反応すべきか流石に悩んでしまう。こんな事は初めてだ。
皆の期待通りの月野Aは、傍から見たら気遣いの出来る優しい絵に描いた様な良い子だが、本来の私はそう上手くはいかない。
敬語を外して話た私に目を見開いて固まった後、ボンッと一気に顔を赤くして口元を隠しながら私をマジマジと見つめる彼を、首をやや傾げて見上げる。死にかけの様な、しかし歓喜に満ちた悶絶の声が彼の端正な顔から飛び出て、思わず笑いかけた。
忙しないな、と元凶でありながらも呑気に考える。ちょっと面白い。
『分かりやすかった？』
「いや、ずっと見てたから………」
『へぇ、御影君も私のファンなんだ』
「んん………まあ、ちょっとだけ」
明らかにちょっとでは済まなさそうだが。照れた様に頬を掻きながら、下手な誤魔化しをする彼を微笑みを浮かべて生暖かい目で見遣る。御曹司が私のファンだなんて、ちょっぴり鼻が高い話だ。
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作者名：信楽
| 作成日時：2022年12月25日 2時
