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一体どうしたものか、とドアの隙間からの漏れ光に目を細めながら、中を覗き込んで小さく首を傾げる。この棟で夜遅くもしくは早朝にトレーニングルームの電気がつけっぱなしだと、最早誰かというのは想像に容易い話だが今回も例には漏れ無い。

名称は分からないが、よくテレビ等で見かけるトレーニングマシンを使い真剣な様子で鍛えている凛君。あの特訓内容で更に追い打ちをかける様なメニューをこなせる彼の熱心な姿勢は目を見張るものがあるが、しかし睡眠時間を削ってまでやるのは不安になる。

けれども、あれ程までに真剣な彼を見ていると水を差す事は憚られてしまう。頃合いでも見計らって出直すべきだろうか、と音を立てずに静かに戻ろうと私が丁度踵を返したその時。「何の用だよ」と、機械の隙間を掻い潜りドア越しに彼と瞳が合った。



『気付いてたんだ』
「お前は鬱陶しいくらいに目立つ。んで、何か用かよ」
『用事って程では無いけれど……ちょっとオーバーワークじゃないかな』
「………うるせぇ。ンな事で邪魔すんな、お前に説教言われる筋合いはねぇだろ」
『それはそうだけど、心配だから』
「……はぁ、そういうお前はどうなんだよ」



音は立てないようにしていたのに、どうやら居る事に気付かれていたらしい。一旦区切りが着いたのか機械から降りた凛君が向けてきた、不審がっているその視線に苦笑する。

私は医療に詳しい訳でも、増してやサッカーについて知っている訳でも無い。ド素人の曖昧な質問に、元々機嫌が良くなかったのか冷たく突き放されてしまう。

しかし、そんな事で一々折れている訳にはいかない。素直に心配していると告げれば、彼は更に怪訝そうに顔を顰めて私に質問で返してきた。どういった意図か読み取る事が出来ずにキョトンとする私を見て、彼は「だから、そういうお前は寝れてんのか」と私を見遣る。

そういえば、早朝でも深夜でも。勿論昼にも彼とはよく顔を合わせているので、彼から見たら私も寝不足を疑われるのか。



『私は分割して寝ているから大丈夫だよ、ありがとう。でも、凛君はまとめて寝る派でしょう?』



数時間ずつに分けて、一日の間に二、三回寝るタイプなので一見睡眠が足りていなさそうでも実は足りているのだ。こういう変なところでお兄さんの血を引いている事を実感させられる。

『因みに今はこんな時間』と腕時計を見せて、言外に流石に寝てほしいと伝えれば、彼は一つ面倒臭そうに溜息を吐いた。

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作者名:信楽 | 作成日時:2022年12月25日 2時

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