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氷織君はチームメイトとかなり仲良く付き合っていたし穏やかな人柄だったと記憶していた為に、目の前で烏君を相手に舌戦を繰り広げている氷織君の姿に内心意外な気持ちになった。そういえば、二人とも関西弁だし昔からの付き合いなのだろう。

急ぎの仕事は特に無い為、彼らの邪魔にならない様であれば別に良いのだが出にくい空気になってしまったものだ。私の近くにコソコソと寄って来て居た乙夜君の「Aちゃん居るから盛り上がってんね」との一言に彼へと視線を流す。



『あのままで大丈夫なの?』
「ン。今に始まった事じゃねーし」



試合中はよく烏の方から絡んでる、と大した事無い様子で言う乙夜君を見るにそれなりに見慣れた光景らしいが。興味深そうにその様子を眺める私と二人を一瞥した後、私へと視線を戻した乙夜君は腰を曲げて「何なら俺と抜け出そーよ」と、王子様さながらな台詞を述べた。

中々様になっている。手馴れた様子に思わず『慣れてるんだね』と素直に零してしまえば、彼は不貞腐れた様に口先を尖らせて手を引いてしまう。



「イジワルなAちゃんも好きだけど」
『ごめんね、悪い癖になってるみたい』



良くも悪くも人に興味を持たれやすい為に、面倒くさい人に絡まれる事も多くあった。そんな彼らに口調の軽さこそ似ているが、少なくとも乙夜君は全く違うとここでの関わりを通じて理解はしている。監内では屈指の女好きではあるようだが、悪い人では無い。

「だったら、俺と一緒に直す?」と問うてきた彼に、どうやって直すというのか見当もつかずに首を傾げた瞬間。涼やかな髪を揺らして「悪いけど、僕のが先に月野さんに用事あるから」と言いながら二人の間に壁になる様に割り込んだのは氷織君であった。



『嗚呼、そうだった。聞きたい事あるんだっけ』
「せやねん。ちょっとだけ、月野さんの時間借りてもええ?」
『勿論大丈夫だよ』



そもそも、彼は私への質問があって態々探しに来てくれたのだ。薄く笑みを浮かべて、トレーニング用の機械について聞きたいと言う彼に着いて部屋を出ようとした私の腕を誰かが不意に腕を柔く掴んだ為に重心が後ろに傾く。海の様な瞳が間近で煌めいた。



「人畜無害な顔しとっても、男は狼やって覚えとき、……や」
『ふふ、カッコつかないね』
「うっさいわボケ……」



久しぶりに目があったのも束の間で、直ぐに熱くなった顔を押さえ声も尻窄みになる烏君に、思わず小さく笑ってしまう。

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作者名:信楽 | 作成日時:2022年12月25日 2時

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