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緑色のメッシュがオシャレな男の子がやや軽妙な口調で私にアプローチをかけてくるが、生憎此処には彼氏を探しに来た訳では無いので自分の中で最上級の笑顔で断らせてもらう。それでも彼は引かなかったが。
「名前なんてーの？」
『ん〜……』
「え、何でそんなに可愛い事すんの」
『ん、月野Aだよ。君は？』
「俺は乙夜影汰ね。影汰って呼んでもいいよ、Aちゃん」
『過去一で距離詰めてくるね、乙夜君』
「かわいい」
食い入る様に私の顔を熱視線で射抜きつつ、真横を向いて今日にご飯を口に運びながらも口が止まらない彼。余程私の顔がお気に召したらしいが、ここまで距離が近い人はかなり久し振りで少々押され気味になっているのが事実だ。小学生以来ではないか。
遠巻きに私を拝んでいる周りの方が一般的な対応なんだけども。ほら、目が合うだけでお椀ひっくり返しているし……ごめんね。
こんなに話しているのに一口一口が大きいからか、私よりも圧倒的にご飯を食べ進めるスピードが速い。食べながら話す事が出来ない人間なので、名前を聞かれて口をもごもごと一生懸命咀嚼して、待ってほしいという意思表示の為に手で制止のポーズをとれば、彼は真顔で身悶えだした。怖い。
「Aちゃん、俺と付き合ってよ。マジで幸せにするから」
『今は交際とか考えられないの』
「そっか、分かった」
『……いい子だね』
素直すぎて吃驚する。思い返せばスキンシップは控えめだし、ラインに触れる様な発言もしていなかった。女の子の扱いに慣れている感は否めないが、きちんと人を思いやれる子なのだろう。
ご飯を食べ終えて『ご馳走様』と手を合わせれば、彼は態と残しておいていたのだろう、グラスの中のさり気なく水を口に含もうと手を伸ばす。下心があるかは兎も角、私を送ってくれるつもりなのだろうと想像はついた。
その心遣いは嬉しいが、五号棟しか無いと知らない彼等にはあまりあの辺りを通ってほしくない。感謝と、聞き分けの良かった彼へのご褒美を兼ねて頭を軽く撫でれば、彼は一気に力が抜けたのか上げかけた腰をストンと再び椅子に落ち着かせた。
『一緒に食事してくれてありがとう。おやすみ』
「………」
バイバイ、と目の前で手を振るも彼は視線こそ合いはするがまるで意識が抜けたかの様にボーッと椅子に腰掛けたままである。今まで普通に話せていた方なのに、唐突な展開だ。
『面白い人が多いんだね』
変な人から格上げしておこう。
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作者名：信楽
| 作成日時：2022年12月25日 2時
