電気ブラン『中島敦』※やこさんリクエスト ページ30
安い居酒屋。女は只只、酒を煽っては食い物を口に持っていき、限界が来れば吐き、また飲むという事を繰り返していた
そんな姿を見て、傍に居る少年はあたふたとしていた。食い物を食べる余裕すらなさそうだ。
「一寸、Aさん!もうそろそろやめた方が良いですって!」
「煩い!飲まなきゃやってられっか莫迦!」
「え、ええぇぇ……」
女の一喝に気圧される少年。情けなく声を漏らして止める事もままならない。
女は何杯目かのグラスを空にして、口を袖で拭う。最早、隣にあるのはボトルと言った始末。其処らの男よりも様になるのは、女の性格の問題だろうか。
だが、彼女も彼女で思う節が有るのだろう。少年の目を見詰める。……見られた本人は萎縮で肩を跳ねさせるが。
「敦君」
「ひゃ、はい!」
「遠慮しないで頼みな。グラス、空だよ」
「で、でも……」
「介抱役は黙って付き合って!」
少年は恐ろしさと同時に、心遣いを無駄にする事への罪悪感で胸を痛めた。店員を呼び止め、彼の好きな茶漬けと水を頼む。その時。
「お茶、飲めるよね?」
「は、はい……」
呆気に取られる少年。答えを聞くや否や、女は店員に向き直る。
「水じゃなくて麦茶に変更で!あと、鮪茶漬け一つ追加!」
「嘘ぉお!?」
本人の同意なしに少年の飲み物を変え、茶漬けの中でも少しばかり値を張る物を追加していた。少年は驚くばかりだ。
その間にも、女は酒を注いでは飲み、注いでは飲みを繰り返した。そんな女の様子を、眉を下げて見詰める少年。それに気付いた女は、黒い瞳で少年を刺す。
「何?」
「いえ……何でも……」
「言いたい事、あるなら言えば?罵声雑言だろうが聞くけど?」
少年は視線を逸らして俯いた。女はグラスを置いて、料理を口に運ぶ。咀嚼しながら見詰めて来る彼女。少年は決意した様に顔を上げる。
「そんなに飲んで、何があったんですか?それとも莫迦なんですか?」
「何も?それに莫迦でいいよ」
女は諦めていた。だが、初めて微かに口角を上げたのだ。初めて見る笑顔に、少年は目を丸くしてたじろぐ。
女は少年を一瞥した後、ボトルに目を移し、グラスに酒を注ぎ込む。暖かい鼈甲色がグラスを満たした。
「莫迦じゃなきゃ、こんな悪魔の飲み物に手は出さない」
「そう、ですか……」
少年はよくわからない、と言いたげだ。だが、機嫌を損なわぬ様に相槌だけは忘れていない。彼なりの気配りだろう。
「こんな大人になるなよ?敦君」
女は優しく微笑んでいた。
グレープフルーツサワー『N・ゴーゴリ』※ゆらさんリクエスト→←ブルームーン『F・ドストエフスキー』※こめこさんリクエスト
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いちご(プロフ) - ミラから来たぞおおおぉ! に、しても評価凄いですね!Σ(゚ロ゚;) (2020年6月21日 14時) (レス) id: 3cbabf2902 (このIDを非表示/違反報告)
モフ子 - 道化さん» 全然OKです。後見させてもらいました、兎に角好き(語彙力Maxです。 (2019年8月4日 17時) (レス) id: 7dc88695a1 (このIDを非表示/違反報告)
道化(プロフ) - 書かせて頂きました!お仕事疲れとの事なので、ちょっと絡めたお話を。ゴーゴリ「頑張った子には、ご褒美がいるよね!私は分かっているのさ!」 (2019年8月2日 18時) (レス) id: 915e79c273 (このIDを非表示/違反報告)
道化(プロフ) - モフ子さん» 了解しました!リクエスト内容は、シリーズ最新作の「恋は下心」の方に投稿させて頂きますが、大丈夫でしょうか? (2019年8月2日 18時) (レス) id: 915e79c273 (このIDを非表示/違反報告)
モフ子 - リクエストしても宜しいでしょうか?天人五衰のゴーゴリ君っていいですか?シチュエーションは何でも構わないのでお願いします!仕事帰りに癒されたい!どうか私の我儘を聞いて下され (2019年8月2日 11時) (レス) id: 7dc88695a1 (このIDを非表示/違反報告)
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作者名:jazz | 作成日時:2019年4月26日 19時