葡萄酒『中原中也』 ページ11
紅がグラスの中で揺れる。
フランス料理店。此処で女は人を待っていた。待ち人は、女の上司。
女は上司から、数日前より好意をぶつけられている為、少しばかり気まずいと避けていた。だが、上司はそんな事ではめげずに、女を誘い続けた。結果の晩餐という訳だ。
「……まぁ、先に酔ってれば手は出してこないよね……」
女はワイングラスに口を付ける。お先に頂いて、食事だけで「其れではさようなら」という結末を狙っていた。ふと、高層ビルからの夜景に目を移す女。
「良い景色だろ?手前みたいに」
その傍に、一人の男がやってくる。女の上司だ。その声に、女は視線をやり曖昧に笑った。
男は席につき、ご機嫌に笑いながら、自分の葡萄酒を注文する。店員が離れた時に、上司の青い目が女を射止めた。
「ッたく、苦労かけさせやがる。あんまり拒否され続けられッとな、俺でも傷付くぜ?」
「すみません、中原幹部」
「中也って呼べよ。何回も言わせんな」
憎まれ口を叩く上司。だが、その声は跳ねるように聞こえ、表情は嬉しさを抑えきれないと言わんばかりに笑っていた。
女は曖昧に笑ってグラスに口を付ける。
一口飲み下し、口を開く。
「葡萄酒、来ましたよ」
上司の頼んだ葡萄酒が、ボトルで置かれた。グラスは二つ。女は首を傾げながら、ボトルを持ってグラスの一つに葡萄酒を注ぐ。上司は疑問を知っているかの様に告げる。
「同じグラスだと、風味が混ざる。分けてやるから、飲め」
「……すみません、私は一杯で結構です」
自身のグラスを回しながら、女は告げた。その表情は読めない笑顔。
上司はその様子に片眉を上げた。挑発する様に笑う。
「ほぉー、俺の酒が飲めねェと?」
「私、余り強くないんですよ。嗜みはしますが、弱いものを一杯だけです」
女は嘘をついていた。本当に限界までなら、弱めのシャンパン五杯は飲めた。だが、その際は記憶を飛ばして行為に及んでいるので、自重をしているのだ。
上司はそれを知っていた。上司の元相棒が話していたのだ。
「ヘェ?俺の前じゃァ、意地でもトばない心算か……」
彼は笑みを崩さず言った。勿論、彼には食事に誘った目的がある。目の前にいる女が欲しかったのだ。心も、身体も、全てを手に入れたかった。
「はい。上司の前で、醜態を晒すわけには参りませんので」
女は、上司の思惑を知っていた。幻滅すればいい。そう願っていた。
上司は口角を上げた。それは、新しい玩具を見つけた子供の様な笑みだった。
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いちご(プロフ) - ミラから来たぞおおおぉ! に、しても評価凄いですね!Σ(゚ロ゚;) (2020年6月21日 14時) (レス) id: 3cbabf2902 (このIDを非表示/違反報告)
モフ子 - 道化さん» 全然OKです。後見させてもらいました、兎に角好き(語彙力Maxです。 (2019年8月4日 17時) (レス) id: 7dc88695a1 (このIDを非表示/違反報告)
道化(プロフ) - 書かせて頂きました!お仕事疲れとの事なので、ちょっと絡めたお話を。ゴーゴリ「頑張った子には、ご褒美がいるよね!私は分かっているのさ!」 (2019年8月2日 18時) (レス) id: 915e79c273 (このIDを非表示/違反報告)
道化(プロフ) - モフ子さん» 了解しました!リクエスト内容は、シリーズ最新作の「恋は下心」の方に投稿させて頂きますが、大丈夫でしょうか? (2019年8月2日 18時) (レス) id: 915e79c273 (このIDを非表示/違反報告)
モフ子 - リクエストしても宜しいでしょうか?天人五衰のゴーゴリ君っていいですか?シチュエーションは何でも構わないのでお願いします!仕事帰りに癒されたい!どうか私の我儘を聞いて下され (2019年8月2日 11時) (レス) id: 7dc88695a1 (このIDを非表示/違反報告)
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作者名:jazz | 作成日時:2019年4月26日 19時