また明日。《3》

♯117 ページ17

ビクッと体が硬直して、涙が出た


初めてだよ、名前呼んでくれたの
絶対に名前を呼ぶことがなかった彼
好きとか愛してるって言われても、名前を呼ばれないと、どこか不安があった

ずっと欲しかった“A”って声
最後の最後に、ズルイって……


尊人「待ってA…………」


A「聞きたくないっ！」


両手で耳を塞いだ
後ろから抱きしめて、すごくすごく優しい声で何度も私の名前を呼ぶ

もう諦めてしまってたけど、ずっと求めてたんだと思う


「好きだよ」の前に一言“A”って付け足して欲しかった


尊人「俺、Aの事本気で好きなんだよ？忙しくてあまり会えなかったけど、会える日を楽しみに毎日仕事頑張ってたんだよ？」


A「……私も……会える日を指折り数えてたよ……上手く絵が書けなくても、制作が全然進まなくて悩んでも、尊人さんに会える日までにここまで終わらせようって一つの目標にしてたんだよ？」


尊人「ごめん……これからはもっと会えるように仕事調整する……もっと一緒に過ごせるように頑張るから……」


A「…………もう、遅いよ……(泣)」


尊人「遅くないっ……」


どうしよ……
こんなに簡単に気持ちが揺らぐ


壱馬「……あの。邪魔」


壱馬さんの声で、咄嗟に尊人さんから離れた


A「すみません……」


マンションの入口でこんな事してたら、そりゃ邪魔って言われるよね


壱馬「…………アホな女」


A「……………………」


壱馬さんの言うこと、的確すぎて何も反論できない

そう、私はアホな女なんだよ……
こんな些細な事で気持ちが揺れるくらい、薄っぺらい女なんだよ

でも、それくらい
私にとって名前を呼ばれる事が大きいことだったんだよ

♯118→←♯116

→ 目次へ｜作品を作る｜感想を書く
他の作品を探す