第1章.作戦遂行(5) ページ6
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Aは声を聞いた瞬間に「匿って」と小さく零す。特に慌てた様子はなかったが、眼が非常に冷めていた。
「わ、分かったアル」
神楽がAを押し入れへと投げ入れ、Aが綺麗に着地する。
彼女が素早く襖を閉めたのと、声の主が事務所の引き戸を開けるのはほぼ同時だった。
慌ただしい物音が聞こえたのに気づいたのか、声の主____もとい沖田が聴覚に意識を集中させた。
Aは押し入れの隅で息を殺している。
暫くすると、人の物音がしないのを確認した沖田の瞳が机上の団子を捉えた。
「旦那ァ、来客なんですから返事くらいして下せェよ」
「その前に何で団子勝手に食ってんだ。オイおめー、それ俺のだぞ!」
勝手に家に上がり込み、あまつさえ団子を奪ってゆく。
身勝手極まりない行動だが、それが彼という存在なのだから仕方がない。
どうやら神楽の分も手に取ったらしく、怒り始めた。飛び掛かろうとする彼女を新八が抑えている。
「で?なんの用だよ。まさか用もねーのに来たんじゃねェだろうな」
銀時の言う通りである。
このまま帰って行かれると、彼らはただ家を荒らされただけになるのだ。
ついでに、用がないとは言わせないというような圧をかけておく。
「用があるから来たんでさァ」
銀時の圧をものともせず未だ団子を口に含みながら沖田が言った。
彼が人を頼るとはなんとも珍しい。
今にも雨が降るのではあるまいか。
そんなことを心の内に潜めながら、銀時は何だと尋ねた。
新八も同様だが、神楽はつまらなさそうに鼻をほじっていた。
「桂に付いて回る女を知らねェですかィ」
“桂”の所の“女”といえば1人に絞られる。
Aだ。
桂の部下は全員男であり、女など存在しない。そもそも攘夷志士である女は少ない。
彼女は幕府に仇なすその実、攘夷志士の紅一点と言っても過言ではなかった。
真選組である以上、沖田はAを見つけ次第捕まえようとするだろう。
それを知ってか、銀時たちは表情が動くのを抑える。
「知らねェな。アイツの所に女なんていんのか」
「土方さんがそう言ってんでさァ。本当に何も知りやせんかィ」
「……あ、あァ」
沖田の探るような視線に思わず目を逸らした銀時だったが、取り敢えずは誤魔化すことが出来たようで、「そうですかィ」と一言言うと玄関へ歩を進めた。
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愛梨沙(プロフ) - 面白いです。更新楽しみにしてます (2019年12月16日 14時) (レス) id: cd2953f50f (このIDを非表示/違反報告)
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作者名:望月向日葵. | 作成日時:2019年10月30日 0時