《後編》改）言えない師範と言わない継子【不死川実弥】

43 : 好きになっちゃうでしょ ページ4

side 胡蝶しのぶ






「………Aは、好きなのね。不死川さんのこと」



先程のはしゃいだ様子から一転、甘露寺さんはとても優しい微笑みを浮かべ、Aさんを覗きこんだ。


はは、と小さく笑って、Aさんは眉を下げる。



『………そりゃ、好きになっちゃうよ。そもそも命を助けてもらったわけだし…………それに師範、すーごく優しいの。あんな強面で、ガラ悪くて、色々と容赦ない人だけど………実は結構イケメンだし』



とにかくホント優しいんだよね、と続けたAさんの表情はとても柔らかで、可愛らしかった。



恋をすると、こんなにも。

表情というものはくるくる変わるのだろうか。



「………伝えればよろしいのに。そのお気持ち」



これもまた本音を漏らせば、Aさんは困ったように微笑む。



『うーん………実は考えたこともあるんだけど。………師範は特にほら、悪鬼滅殺こそが生きる目的の方だから。そういう人に想いを伝えるのは………むしろ酷なのかな、って」



はあ、と溜息と共に紡がれた言葉達に、甘露寺さんは何だか、泣きそうな顔になってしまう。



「A………」


『継子として、あれだけ期待してもらってるのに………私の勝手な想いを伝えたら、傍においてもらえなくなるかもしれない』


「………Aさんは継子としてだけであっても………不死川さんのお傍に、居たいと？」



結論を導くのは、難しくなかった。

私のそれに、Aさんははっきりと頷いて笑う、



『ふふふ………やだ私ってば健気ー』



そこでようやく、Aさんの表情はいつも通りになった。



『でもまだわかんないよ？ この先私達が、鬼を滅することが出来たら………その時には絶対、言ってやるんだから』



ずっと好きでした、ってね！ と太陽のような笑顔を見せた、Aさんに。



この方らしいと思いながら、3人で顔を見合わせ、私達は声を上げて笑った。



・

44 : それは同じ類いの→←42 : 継子としてだから

→ 目次へ｜作品を作る｜感想を書く
他の作品を探す