11枚目 平穏 ページ13
「零、食べ過ぎだ」
「わりい、でも俺の金だし問題ねーだろ」
「そろそろ切り上げてもいいんじゃなイ？」
カラン、と溶けかけた氷が音を立てる。もう日はかなり傾いていた。
支払いに出向いた零兄さんの気配を感じながら、ボクらは席を立つ。
「御馳走様でしタ」
「そういえば……やけに大人しいですね」
「奏汰兄さん？あ〜、ぶっちゃけ兄さんたちが物で釣ったから拗ねてるのかもネ……ウン、完全に拗ねてル」
ぷく、と愛らしく頬を膨らませたまま無言の兄さんを横目に零兄さんを探す。
丁度目を向けた会計にいた彼を追いかけると、それに気づいた兄さんはボクらに片手を上げた。
「よぉ。……奏汰、やっぱり拗ねてた？」
「はい、バッチリ。」
「どう責任取るつもりかね」
「ぼくのことはおかまいなく……」
いつになく覇気のない気弱な声で呟く兄さんに、一瞬零兄さんはぽかんとした顔を見せた。
「まぁ、次は魚だな。待ってろ、次帰ってきたら魚食わせてやるから」
「ほんとうですか！？」
パァ、と効果音がつきそうなほどあからさまな反応を見せた兄さんに思わず頬が緩んだ。
｢やっぱり魚……食べるのに抵抗はないんですね……｣
｢というかこいつ、拗ねつつちゃっかり食ってたからな｣
兄さんのどうでもいい話を背に、ボクは一歩先を踏み出した。
｢平和ですね｣
｢……そうだネ、師匠｣
でも、この平和には裏がある。兄さんたちもボクも必死に平和を取り繕っている。そう、ボクらだけが。
兄さんたちの話す姿。平和や幸せを求めるボクには絶好のシャッターチャンスのはずなのに。
なんだか、今すぐにカメラを構える気はなかった。
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作者名：竜花 | 作成日時：2019年8月15日 2時
