君の歌に恋をする 4【歌い手】

ウタコイ１３１ 夏瀬柚木side ページ9

薄々思ってたの

あの子はもしかしたら、あのシェアハウスの歌姫なんじゃないかなぁって

あそこは、防音完備だし、みんなギターとか音楽やってるって知ってた

退院したその日、あの子がマイク持ってるのを見て、真っ先に思ってしまった

『ここのシェアハウスの歌姫は、AAちゃん』

敵うはずもない歌唱力

透き通った声

豊かな表現力、抑揚

そして…

「夏瀬、さん…どうして、泣いて…」

振り向くと、私を追ってきたのだろうか、Aちゃんが戸惑ったように立っていた

…そう、私は、だらしなくもこの子の歌声に感動して泣いてしまっていた

夏「…歌苦手、って、やっぱり嘘だったんだね」

悔しい

追い出そう、って、思ってたのに

この子の声に、惹きつけられてしまった自分がいる

「あっ…それは…」

ぱっと青ざめて、焦り始めるAちゃん

なにそれ

こんなときまで、どうして、可愛くいられるの？

計算してる？猫かぶってる？？

夏「やっぱり、いけ好かない」

ぼそ、と口から漏れた声は、酷く冷たく響いた

ちがうの

こんなことが言いたいんじゃなくて

『歌上手いね、感動しちゃった』

そう、言えばいいのに

ぴた、と固まった彼女を背に私は部屋へと戻る

…そこでは、遥さんや音湖ちゃん、真冬くんが涙をこぼしてAちゃんのことを語り合っていた

ウタコイ１３２→←ウタコイ１３０

→ 目次へ｜作品を作る｜感想を書く
他の作品を探す