第壱幕 ページ3
【その耳元で微笑むのは】
声音を震わせて、言葉を紡ぐ彼女と云ったら。なんて可愛らしいのだろうか。太宰は電話越しにうっすらと微笑みを浮かべた。
久し振りに聞いた声は幾分か、大人びていたし、当時よりも素敵な女性になっているだろう。そう思いながら、今日の天気を見上げた。
現在は彼女達が失踪して(正確には異世界に飛ばされてから)から、“二日目”の早朝。澄み渡るような蒼い空が大地を見下ろし嘲笑っている。
「久し振りだねぇ、A」
『……え?』
戸惑いの声が聞こえた。彼女はあの日のことを深く後悔しているのだろう。太宰の手を取らなかったことを。この乙女はとても残酷に。
彼女は確かに躊躇っていて。太宰の手を取ろうとした瞬間に、中也の邪魔が入ったのだが。それ故か、太宰とは以降、一度も会っていない。
『あ、えと。久し振りね』
「あの日以来だね、こうして話したのは」
『えぇ。そう、そうよね』
「あの日のこと、そんなに気にしてたのかい?」
言葉が見事に途切れる。太宰からこの話題を振られるとは思ってもいなかったのだろう。そして軽い嘆息と共に、伺うような声が聞こえた。
『……今でも怒ってる?』
「何を?」
『太宰の手を取らなかったこと。それ、に。彼の人のこと。私が、私は______』
「織田作のことはAのせいじゃない」
太宰は真面目に断言をした。織田作のことを追い詰めたのは森鴎外であり、義娘であるAに罪の色も贖罪も。有るなんて、有り得ない。
異能で幾らでもポートマフィアを抜け出すことは出来ただろう。それでもしなかったのは、彼女が義父のを大切に思っていたから。
それは当時も予測できたことだ。あの時、共にマフィアから抜け出したかった。今でもその想いは拭えないが。優しすぎる彼女のことだ。
「君のせいではないよ」
『違う、私がもっと、もっとちゃんとしてたら。そしたら違った筈だから』
「どうしてそんな風に自分を責める?」
『だって』
「Aの悪い癖だ。自己犠牲精神も程々にするようにって私、云ったと思うんだけど」
『私があの日、遠征なんかに行ってなければ。もっと前に気付いていれば。私がもっとちゃんとして、れば……』
「たらればを言っても、失われた命は回帰しない。それはAが一番良く知っているはずだ」
『太宰……』
「さ、本題に入ろう」
そして語られる、異能の詳細。
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セニオリス - カノンさん» 有り難う御座います。カノン様もコロナが流行っているこの時期、身体は大切にしていただけると幸いです。何れはこの作品もリメイクしたいと思っています。 (2020年4月23日 15時) (レス) id: 353512f049 (このIDを非表示/違反報告)
カノン(プロフ) - 了解しました。そういう時もありましょう、お大事にしてください。寝たきりになるほどのものということは、相当大変なものなのでしょう。1日でも早い回復をお祈りいたします。どうかご無理はなさらずに。 (2020年4月23日 0時) (レス) id: 4add46839e (このIDを非表示/違反報告)
セニオリス - ひなさん» 中也は多忙なので、電子ゲームだと太宰に無理矢理付き合わせられて、RPGものしかやったことがないというこの作品の中也の作者の勝手な妄想です。所謂、裏設定的なものとして後程、ページに乗せておくつもりでした。ご指摘ありがとうございます!! (2020年2月8日 19時) (レス) id: 9ec8afc8ac (このIDを非表示/違反報告)
ひな(プロフ) - 少し疑問に思ったのですが、電子遊戯にかっこでRPGゲームと書いてありました。RPGはロールプレイングゲームの略なのでRPGゲームだとロールプレイングゲームゲームになるのかな、と思いコメントさせて頂きました。いつも楽しく読ませて貰ってます!更新頑張って下さい! (2020年2月1日 19時) (レス) id: c610c6a646 (このIDを非表示/違反報告)
セニオリス - 凛音さん» ありがとうございます!!最近、条野さん贔屓かもしれない……(笑) (2020年1月6日 15時) (レス) id: 91ffd2339b (このIDを非表示/違反報告)
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作者名:セニオリス | 作成日時:2019年12月21日 19時