第拾壱幕 ページ13
【追憶____其ノ壱】
ある任務にあたっていた時。誰に告げた言葉なのかは、正直あまり覚えていない。ただその日は、霧雨が降っていたのは確かだ。
「Aさん、あの」
『どうかしましたか』
「どうしてAさんは、マフィアになったんですか?僕が入る前からいらっしゃいますよね」
別に森に指示されてマフィアになったわけじゃない。自らの意思で、この闇に染まった。何を思ったわけでもなかった気がする。
Aには本来、人間にある幼児健忘期がない。母親の胎盤にいる頃からずっと記憶が存在する。だから、己の両親が死んだ理由も。
誰に殺されたことも、承知の上で森の義娘として生きている。両親の死。それが初めて、死というものを実感した物事だった。
赤子の時から血濡れた身体を、光に晒すことを心が無意識に拒否した。だから、役立つ為にマフィアとして情報を森に流した。
『貴方こそ、どうしてマフィアに?』
「僕の父親が暗殺者だったんです」
『……そう』
「ここのマフィアに雇われている最中に、僕の母が僕を産んだので。そのまま此処に」
今、思い出せば。そう問うた彼は、年下だった。最下級構成員だったかもしれない。忘れかけたそれは、まるで欠けてしまったが。
『私はね、戦えるようになりたかったから。だから、きっとマフィアになったの』
「戦えるように?」
『決して命の尊厳を奪われないために』
両親が死んだのは、戦う力がなかったからだ。森の力に屈することしかできない愚か者だったからだ。だからこの世界から消えた。
「でもマフィアに入らなくても……」
『どれだけ善良に生きてたって神様も仏様も結局、守ってはくださらないから』
だから______。
『私が大切な人を守らなければと思ったんだ』
____二度と理不尽に奪わせない。
もう二度と。
__________誰も。
好きな人や大切な人は漠然と。明日も明後日も生きてる気がする。それはただの願望でしかなくて。絶対だよと約束されたものではないのに。
人はどうしてかそう、思い込んでしまうんだ。
『できるできないじゃない。やらなきゃならないことがある』
__________まだ太宰がマフィアを辞める前の、とある任務での会話。
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作者名:セニオリス | 作成日時:2019年10月18日 22時