ゼルトザーム屋敷の冒険【オリジナル】 (ページ8)

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第８話　身支度３ページ8

「お前ら早いな」
「むしろ店長が遅いよ！一体何していたの？」
「いやー、こいつを選ぶのに時間かかっちゃって」

　そう言って差し出した鞄の中には、スマホ、ポケット充電器、懐中電灯。それに、な、なんじゃこりゃ！？なんで探索するのに赤ワインがいるのか！！しかも二本！！小さなボトルが二本！！
『シャンパン探偵・沢山飲造』の録画をしているフリッツさんの顔を両手で掴んでをこっちに無理やり振り向かせる。

「首痛え！？何すんだよエラ！」
「フリッツさん！！！なによこのワインボトルの数は！！」

　ワインボトルを指さした私に、一瞬同様の表情を見せた後、フリッツさんはソッと目線を逸らした。

「そりゃー、あれだよ、うん。活力だよ！俺はまだまだ若いけれど、活力がなくちゃあいけないからな！」
「充分おっさんだよ店長」
「お黙りルートヴィヒ！！」
「ともかく置いていってください！！」
「それは断る。俺はワインがなきゃダメなんだ」

　完ッ全にアルコール中毒の言い分だよね、これ。お屋敷を見に行って帰ってきた翌日にでも病院に連れていこう。フリッツさんは病院嫌いだけれど、今度ばかりは絶対に連れていくからね、今決めた。

　大の大人に駄々をこねられても困るので、とりあえずワインの携帯は許可した。それに、あーだこーだと言い合っている内に深夜になられたらたまったもんじゃない。こういう時に諦めたりするのって人生において大事だと思う、うん。

「さ、録画の用意も済んだ事だし。行ってみますか！」
「レッツゴー！」
「お～～」

　ノリノリで答えるルー君の隣でノリ気じゃない声をあげるの、ちょっと申し訳ないけれど仕方がないよね。だってノリ気じゃないもん。

　フリッツさんが家と店に鍵をかけるのを二人で確認して、森に向かっていざ出発。美しい夕暮れの空は、もう藍色に染まりつつあった。夜空に浮かぶ月と星の輝きが、今日はなんだか少し不気味に見える。

　どうか無事に帰ってこれますように。