知られざる優しさ ページ46
「おはよ……えっ」
橋本「おはよ」
「ななみん、なんで…」
橋本「んー、まぁ仕事こっち方面だし？
マネージャーさんに往復してもらうの悪いからさ。
だったら、一緒に行こーって思って」
「そうなんだ…」
『てわけで、ななみんと共に送迎しまーす』
「お願いします…」
やって来てしまった、テスト当日。
昨日まで散々勉強してきたから大丈夫。
そもそも、今までの成績から考えれば、よっぽどがない限り落ちない。
自分にそう言い聞かせて、気持ちのコントロールをして来た。
最後の追い込みで単語帳を見ながら車に乗ったら、先約がいた。
まだ眠そうな目をして、にへらと笑ってる。
咄嗟に安心してしまっている自分がいた。
『ななみん、Aの学校見るの初めて？』
橋本「うん、実物見るのは初めてー」
『めっちゃおっきいんよ、綺麗やし』
橋本「へぇ、楽しみだぁ」
『学校の佇まいから、賢い学校って感じやで』
橋本「私の中学はなー、普通に雪に埋もれてたからなぁ。
東京にはこんな広い学校があるんだって、初めて街歩いた時驚きだったわ」
私に気を遣って、2人で話してくれている。
無言も緊張する、でもAには勉強させてあげたい。
思いやりが心に沁みる。
緊張で固まっていた心が、段々と解れて来た。
『はいA、着いたで』
「ありがとう、まゆちゃん」
『大丈夫？酔ったり苦しくなったりしてない？』
「うん、大丈夫」
『いつも通りで大丈夫よ、Aは出来る』
「ありがとう、行ってきます」
橋本「A…！」
「ななみん、お仕事頑張ってね」
橋本「もし、もし万が一のことがあったとしても…
その時は、私が絶対に説得するから。
Aのことは、私が辞めさせない。
私の卒業は、Aに見届けて欲しいから。
いや、絶対見届けさせるから。
分かった？約束だよ？」
「…うんっ」
どこかで張り詰めていた。
辞める、辞めないの天秤に自らを掛けていた。
そうじゃない選択肢がある。
破れない約束をした。
こんなにも心が優しくなる約束は、初めてした。
:
『ななみん、早くからありがとね』
橋本「私が顔見たかっただけなので」
『大丈夫そうで安心したわ』
橋本「うん、あの顔したAなら絶対大丈夫」
私が降りた車の中。
行先は、学校とは逆方向のスタジオ。
優しい空間に流れる、ちょっと大人の時間。
こんな会話が成されていることを、私は知らない。
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作者名：しろりんご。
| 作成日時：2023年3月28日 18時
