01. いづみside ページ3
他の劇団の手伝いに行った帰り道。
結構な距離をいつもより高いヒールの靴で歩いたからか、かなり疲れた。
いづみ「お洒落な喫茶店だ…！」
こんなところにこんな喫茶店があったなんて知らなかったなぁ…
せっかくだし、入ってみよう。
カランカランと鳴るベルの音と共に木製のアンティークな扉が開くと、「いらっしゃいませ〜」という声が聞こえてきた。
内装もアンティーク調で揃えられていて、なんだか素敵な世界観だ。
あ、こんな感じの小道具とかあったらいいかも！
なんて考えながら店内を眺めていると、店員さんがメニュー片手に席まで案内しに来てくれた。
『あれ？いづみ？』
その声に、パッと店員さんの顔を見る。
雪のように真っ白な髪、紅葉のように赤い瞳に、整った顔。
その店員さんに私はばっちり見覚えがあった。
いづみ「雫くん！？」
『そうそう！やっぱりいづみだ！』
いづみ「久しぶりだね！
背伸びててびっくりしちゃった」
私の目の前にいる彼は露木 雫。
幼稚園からの幼馴染で、昔はよく一緒に遊んだ。
高校までずっと同じ学校だったけど大学は違うところに進学したから、最近は会っていなかったのだ。
この町にいたのかぁ…
春組旗揚げ公演やら借金やらで忙しくて、全然気づかなかった。
『どうしてこの町に？』
いづみ「色々あってMANKAIカンパニーの総監督やることになったの。
雫くんは？今はここの店員だけ？」
『いや、家庭教師もやってる！まぁ所謂フリーターってやつです。
それに俺、まだ劇団の公演観るのは好きだから…この町にいると楽しいんだ』
いづみ「…そっか」
…いいこと思いついた
いづみ「家は借家？」
『うん』
いづみ「うちの団員寮こない？」
『え』
いづみ「三食出るし、結構広いし、もちろん家賃もかからない！しかも団員の練習風景も見れるよ！！」
『でも俺、団員じゃないよ？』
いづみ「じゃあ監督補佐として私を手伝って！」
『…いいのか？』
もちろん！と言って右手を差し出すと、控えめに、でもしっかりと私の手を握ってくれた。
雫くんは昔は演劇を【やる側】だった。
ある時を境に、彼は【観る側】になった。
舞台に立って、お客さんの前で演技をしなくなったんだ。
私が絶対いつか もう一度、板の上に立たせてみせる！
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