18 不器用だから ページ19
勢い良く開いた扉。
そこにいたのは大神くんじゃなくて、いつもは寡黙で落ち着いている乙狩くんの、珍しく焦った姿だった。
「…!」
気付いた時にはがっしりと肩を掴まれていた。
彼の顔がすぐ目の前にある。
あぁ、どうしよう、どうすれば。
視界の端に鳴上くんが見えた。
彼に助けを求めても、ただ頷きが返ってくるだけで。
乙狩くんが口を開く。
「お前は俺がアイドルになる為に頑張ってくれている。たくさん、影で努力していた。」
真っ直ぐな視線に咄嗟に目を逸らしてしまう。
「…俺はそれを知っていた。それなのに言わなかった。
お前は強いと思いこんで、俺が守らなくても、お前なら自分の身は守れると過信していた。」
次の瞬間、彼は勢い良く私に頭を下げたから、
流石に声を掛けない訳にもいかなくて、慌てて彼を止める。
だって、あんなの私が勝手にやっていたことで、私の体調管理がてきていなかったが為に、倒れてしまっただけのことだから…
大丈夫。私は、大丈夫………
「お前自身、自分は強い、できる、大丈夫だと思っているかもしれない」
再び彼と目が合った。
彼の右手にがっちりと顔を掴まれては、逃げる事もできなくて。
…ああ、なんで、
「だが、それ以前にお前は一人の女性だ」
どうして君は。
「だから俺はおまえを守ろう。…お前は、ひ弱だからな。」
彼は優しく笑った。
( あぁ、どうして私が欲しい言葉を全てくれるんだろう。)
彼はいつだってそうだった。
プリントの束を持っていれば手伝おうと声をかけてくれたし、黒板掃除では高い所を何も言わずに消してくれる。
きっとそれらは全て無意識で、当たり前のことで、彼はもう覚えてはいなんだろうけど、そんな一つひとつの言動が私は嬉しかった。
「本当に、申し訳なかったと思っている」
再度頭を下げようとした彼の手を咄嗟に掴んだ。
彼は少し驚いたように私を見る。
彼は自身を不器用で口下手だと言っていたことがあったけど、きっとそれは私もおんなじで。
こういう時、手だけは先行して動いてしまうけど、頭の中は真っ白になってしまうから、あぁ、なんて言おうと少し悩む。
悩んだ末に出てきたのは素頓狂なものだけど、
でも、それが私の願う全てのことだから、
「あの、…お友だち、なって、くれますか」
小さな。けれども確かな一歩だった。
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かなかなかな… - ありきたりな言い方になってしまいますが、ものすごく感動しました。所々泣きそうになってしまったり、最後はものすごくニヤニヤしたり。読んでいてとても楽しかったです。素敵な作品をありがとうございました!! (2022年3月29日 19時) (レス) id: 62f4ed090e (このIDを非表示/違反報告)
みる - 最後のタイトル回収がほんとうにすごかったです!めちゃくちゃ楽しませていただきました!! (2021年9月21日 17時) (レス) @page50 id: 8126ce0406 (このIDを非表示/違反報告)
繕*(プロフ) - ふわり。さん» コメント・ここまでお付き合い下さり有難う御座います。こちらこそ、これからもお付き合い頂ければ嬉しく思います笑 (2019年8月23日 14時) (レス) id: 019269e21e (このIDを非表示/違反報告)
繕*(プロフ) - 哀霞さん» コメント有難う御座います。そう言って頂けて幸いです…励みになります。次回作の方も宜しくお願い致します笑 (2019年8月23日 14時) (レス) id: 019269e21e (このIDを非表示/違反報告)
ふわり。 - 完結おめでとうございます!雰囲気も素敵でエピローグまで一気に読んじゃいました(笑)これからもファイトです! (2019年8月21日 17時) (レス) id: 9c497f6a6a (このIDを非表示/違反報告)
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作者名:繕 | 作成日時:2019年7月31日 11時