545話 ページ45
【高地】
家に帰るとまだ慎太郎がいてくれて、今日は泊まるからいいよって言ってくれる。
お嬢の体調の波は、今日は割とアップダウンが激しいので、ちょっと何があるか分からなくて、こういう時は俺も警戒してしまう。
「んっ…」
緑「んー？A、どっか気持ち悪い？…あ、脈飛んでら」
黄「え、嘘。うわ…ホントだ」
ﾄﾝﾄﾝﾄﾝ…ﾄﾄﾝ、ﾄﾝﾄﾝﾄﾝ…ﾄｯﾄ…
そんな風に腕から伝わってくるリズムと、それに顔を歪めるお嬢に、俺までちょっと苦しくなる。
色んな不調に対して、慣れた、と言って耐えられてしまうAだけど、不整脈と酷い時の幻肢痛だけは、どれだけ経験しても慣れないらしく、いつも苦しそうな顔をする。
緑「A、大丈夫だから、もうちょっと体の力抜きな？」
「んーっ…」
黄「A、深呼吸…。フーって」
胸をさすりながら、声をかけてやるけど、慎太郎の腕をギュッと握る強さは変わらない。
明日は…あ、YouTubeの撮影だっけ。
事務所での撮影になってたはずだし、なんとかいけそうかな…なんて頭をフル回転させる。
「こーち、薬…飲む」
黄「そだね、飲もっか」
緑「明日って事務所ー？」
黄「うん。うーちゃんには伝えてあるし、他のグループも明日撮影するとこ多いみたいだから、順番変えれるって。ちょっとゆっくり出れる」
「ん、ありがと〜」
緑「なんか、Aフワフワしてきたね」
本当は、このまま眠ってくれるのが一番ありがたいんだけど、薬が効いて落ち着いてくるまでは、そうもいかなくて。
もうちょっとだけ我慢ねって、いつものように声をかける。
心配そうにAの手を握る慎太郎に、フニャッと少しだけぎこちない笑顔を向けるお嬢。
黄「寝れそうなら、寝ちゃいなね？もう皆んな居るからさ」
「うん…」
苦しさと不安でちょっぴり早くなるAの呼吸と、フラフラと噛み合わない視線。
軽く手で目を伏せてやれば、次第に呼吸は落ち着いてきて、俺もいつの間にか、Aの手を握りながら眠っていた。
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作者名：かん。
| 作成日時：2020年12月15日 20時
