無限の未来 4th season (ページ13)

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163話ページ13

【片寄】

片寄「おっ。来たやーん！お帰り、A」

「へへへっ…。ん、ただいまぁ～」

Aは、治療を中断した。

治療をやめて、冬合宿が始まるのに合わせて、数ヶ月ぶりに寮に戻ってきた。

「今のまま、生きてても…後悔する。だったら、今を全力で生きたい。それで生きられなくなっても…その方が後悔しないと思う」

退院が決まったと聞いた時、一度は手放しで喜んだ俺たちだった。

でもその後Aから全てを聞いて、なんとも言えない思いでいっぱいになった。

あくまでも、“中止”ではなく“中断”をしただけ。

病気が治ったわけでも、Aの状態が良くなったわけでもなくて、むしろ、ここを出て行った時のAの状態より、甲子園で見送ったあの時よりも、状況は悪化をしていた。

いつ、なにがあるかも分からない。

率直にいえば、今日明日…たった今、死に直面するようなことが、ないとも…いえない。

でも、Aは前を向いているみたいだったから、俺たちだって。

数原「おー、帰ってきたか！退院おめでとう。あ…お前の部屋、そのままにしてあるから。あぁ、掃除はちゃんとされてる！きれいやで、安心しとき」

「ありがとう」

片寄「Aっ！…俺と、数原の部屋もそのまま。場所もなんも変わっとらん。だから、何かあったら…絶対、すぐに来い」

“なにかあったら” この言葉が、これまで以上に意味を持つこと。

それは、まだ子どもの俺たちでも、今は十分に理解しているつもりだった。

Aからあんな話を聞かされた以上、そんなことを気づくことのできない俺たちじゃなかった。

「合宿…楽しみやなぁ」

佐野「あんな地獄の毎日、楽しみにできんのお前ぐらいだわ」

「あ、佐野。…楽しみや。18人でおれる。離脱は、禁止やからな」

佐野「うるせぇ。俺らが離脱するわけねえだろ。むしろ、離脱禁止なんはお前の方だわ。…離脱なんかするようなことあったら、許さねぇから」

「そんなん…望むところやん？」

久々に戻ってきたマネージャーに、夕飯時の部員たちのテンションは、普段の2割増しだった。

みんな、どこかで“万が一”を理解してるから、だから少しだけ、子どものふりをして、見て見ぬ振りをしていた。

目の前のことに全力になって、必死に、逃げていく“今”を生きた。