DATE1 ページ2
トク
「Aー」
A
「何？」
トク
「呼んだだけ」
A
「そっかー」
そんな他愛もない話がのほほんと出来ていた位に、その日の私達も平和だった。
いつも通り授業を受け、少し苦手意識のある数学もそこそこに頑張り、隣のクラスの親友、
今は夕日が背中を差す中、肩を並べて帰っているところだ。
A
「明日は英語の小テストだね」
トク
「やっば、勉強しなきゃー」
トクはちょんまげを揺らしながらおどけて、彼女の先に長く伸びた影も連動してゆらゆらと左右に振れる。
小学校入学当時からの付き合いの私とトクなのだが、彼女のこの雰囲気は未だに読めないところがある。
実際、私はトクに今まで数えきれぬほどの嘘を吐かれてきたが、見抜けたことは片手で数えられる程だろうか。
余裕綽々といった、つかめないオーラ…そこも勿論含め、トクは最高の親友だ。
トク
「あ、ねぇA。今日は外食付き合ってくれるんだよね？」
A
「勿論、じゃあ先にトクの家向かおうか」
そういえば、今日は彼女と一緒にファストフード店へと行く予定があった。
数日前、スマホの予定表に【トク、外食】と打ち込んだ覚えがある。
着替える為に、まずは近いトクの家から向かった。
トク
「すまんね、ちょっと待っといてー」
A
「大丈夫、ゆっくりで良いよ」
トクは家の鍵を片手に小走りで玄関へ向かい、軽くこちらへ謝る。
私は【鎌田】と書かれた標識の前に立ち止まって、忙しない様子のトクへ手を振る。
心なしかいつもより嬉しそうだった親友の姿に思わず笑みを溢しながら、カバンを漁りスマホを探す。
慣れた手つきでロック画面を解除し、通知が来ていたトークアプリを開く。
進路の事もあり、中々トクとは時間が取れていなかった為、お出掛けすら久しぶりだった私は高揚していた。
そのせいだろう、周りがよく見えていなかったのも、反応が遅れたのも。
A
「………んぐっ！？」
静かなエンジン音が近くで止まった音の後に、私は口元に違和感を感じた。
触れたその感触は布のようで、後ろから伸びた手と腕が視界に確認された。
抵抗しようと手足を懸命に動かし暴れるも、ガッチリと固定されて身動きがほぼ取れない状況下。
そしてその少し後に僅かな刺激臭を感じて、私の意識は暗い常闇へと沈んでいった。
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