時を超えて 74 ページ48
「あーぁ。ようやってくれるわ」
銀髪で体格のいい男が最後に姿を現した。
きっとコイツはこの組織の切り札なのであろう。
彩の振り下ろした剣は簡単に片手で止められ、弾き返される。
その手はまるで鋼のように硬い。
そして、そのまま腕を持たれ、魔力のこもった左腕で振り投げられた。
「ぐはっ…」
「彩！！！」
壁にぶつかり、壁つたいに座り込むような形になった。
壁がボロボロと崩れる音がする。
頭から頬へと流れる温かい液体。
「はぁ…はぁ…」
肩で息をする彩は、明らかに無理をしているように見えた。
(いつもの彩なら簡単に回避できたはずなのに。
あ！そうか、長時間…)
里香は大事なことに気づいた。
ここに来るまで、彩は魔力を使い迅速なスピードを出してきた。
彩は長時間魔力を使うと疲労が大きいという傾向があることを、里香は知っていた。
(だからか…)
圧倒的、力の差を感じる。
俺じゃ勝てない。
戦い方も魔法の使い方も、記憶を無くす前の自分とは違う。
彩は力はあるもののそれをすべて出し切れていない。
というより、ほとんど忘れてしまっていて、出せないのだ。
そして、『人は殺さないという感情が、彼の力は抑え続ける。
ここで彼女を助けるにはどうしたらいい。
どうしたら…
「里香、美優紀さんを連れて逃げろ」
「は！？何言ってんだよ！」
「体温が低下してる。早く治療しいひんと、命が危ない」
「でも…」
「ここは援護が頼むまでどうにかするから。やから、頼む」
「彩を置いては行けへん」
「里香！」
「俺も戦う！二人なら！」
「ダメだ！」
里香はわかっていた。自分では足手まといになるだけだと。
でもそれでもどうしても彩を置き去りにしていく事なんてできない。
「お前はやっぱり優しいな」
彩に言われたのになぜか、彩に言われた気がしなかった。
「里香、頼む。行ってくれ」
「ごちゃごちゃしゃべってんじゃねぇよ！」
前方から怒鳴り声とともに、殴りかかってくる男。
キィィィン
そいつの拳を、自らの剣で受け止める。
「行け！速く！」
「っ…彩！絶対無事でいろ！」
そう言葉を叫び、意識を失った美優紀を担いで、里香は城へと走り出した。
彩ひとりを残して。
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作者名：ハル | 作成日時：2017年1月2日 19時
