時を超えて 63 ページ37
「ん…」
目を覚ますと、そこは見たらない天井があった。
「起きた？」
そこにいたのは、愛菜さんの奥さんの…確か…
「菜々さん？」
「…さんか。まぁ覚えててくれただけマシか。
それより、身体大丈夫？」
「…はい」
あの後のことはよく覚えていない。
でも人を殺した感触は覚えてる。
「菜々さん…」
「ん？」
「俺、人を殺したなんて記憶無かったのに、いざ戦うと勝手に体が動いて、急所を狙ってました。
殺す術は体が覚えてるんです…」
その苦しみにあふれた彩の声に何も菜々は言えなかった。
「俺は、今までどれだけの人を…」
彩はまた涙を流した。
彼の心はもう、ボロボロに傷ついていた。
菜々はその小さな背中を、優しくさすていた。
「愛菜、彩を戦に出すのは禁止ね」
「あぁ、そんなにか」
「もう、精神的にズタボロ…
それに、魔法もあんまり使わない方がいいかも」
「え？」
「隠してるみたいだけど、多分魔力消耗、彩、疲れるの早いみたいなの。
それに魔力の消耗スピードが異常すぎる」
「魔力の消耗スピードが速いのはわかったけど…つまりどゆこと？」
「あの魔法の後遺症的なものだと思うんだけど、彩が魔法を使うのには多分人の2,3倍体力を消耗するってこと」
「そんなにか」
「たぶんね」
「そうか。キツイことさせちまったな」
「そうね」
人間は魔力を使い果たすと死が待っている。
あれだけの魔法を過去に使っておいて、今生きていること自体が奇跡なのだ。
ただ、記憶を犠牲にして。
彩は、久々に部屋に戻ることが出来た。
「彩兄ちゃんだ！」
子供たちが思いっきり駆け寄ってくるけど、今はその子達を抱きしめてあげられない。
人を殺したこんな汚れた手で。
「ごめんな」
そう言い残して、彩は奥の部屋へと行ってしまった。
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作者名：ハル | 作成日時：2017年1月2日 19時
