時を超えて 59 ページ33
次の日は、子供達は学校へ。
里香も由依も初めての仕事へ向かってしまった。
自分は何もやることがなくて、城内を歩き回って、庭を見つけてその木陰で休んでいた。
ただ、何も考えることなくぼーっと。
目を覚ますと夕方になっていて、部屋に戻ろうと思って廊下を歩いていた時のことである。
「ちょ！待てって！」
声の方を向くと、恵さんが誰かを止めていて、でもその人はその手を振りほどいて、俺の方に向かってくる。
その後ろには、何人かの兵士がいるみたい。
「彩〜！逃げろ！」
「えっ？」
恵さんが俺に声をかけていた時には遅くて、その女の人は自分の前まで来ていた。
なぜか強く鼓動が打った。
そして、
左頬に痛みが走った。
全く状況が理解出来なくて、怒りも何も思わなかった。
「嘘つき」
そう呟いた彼女は、悲しい顔…いや怒った顔をして、そっぽを向いて来た道を戻っていってしまう。
「大丈夫か？」
近くに来た恵が、心配そうに声をかける。
「うっうん」
「ごめんな、急に」
「いや、まぁなんとなくわかるし」
「え？」
「俺、なんかしてたんですよね？」
「んー別にそういうわけじゃないんだけど」
恵の後ろにいる女の人は、マジマジとこちらを見つめてくる。
「ん？」
と少し顔を傾けてみる。
「彩…やんな？」
「はい」
「ほんまに変わってなさすぎ」
周りの人も実質一年合ってないだけなのに、反応が異常すぎる。
(1年じゃ、そんな変わらへんやろ)
という疑問が浮かぶ。
その人込みを抜け、廊下を歩いている時のことである。
「ホンマに彩や」
と聞こえてきたと思ったら、抱きしめられていた。
「ちょ！」
あまりにも強く抱きしめられるから、抵抗できなくて、されるがまま突っ立っている。
少し肩が揺れていたから、もしかすると泣いていたのかもしれない。
「ごめん、急に。
私、朱里っていうの。よろしくね」
「よろしくお願いします」
「敬語…か」
「あっ…えっと」
「タメ語でいいよ。まぁだんだん慣れてくれたらいいから」
こんな年上にため口なんて無理だと思った。
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作者名：ハル | 作成日時：2017年1月2日 19時
