逃避 ページ37
悔しかった。
自分と同じような思いをした奴らは、こんな、こんな思いでサッカーをしている奴に思いを託したのだ。
Aは雷門に負けた。星章に負けた。
だから、雷門に、星章に思いを託した。
自分たちの分まで。本戦にいけない自分たちの分まで。
今年で引退の私達の分まで。
ヒロトに負けた奴らだってそうだったはずだ。
それなのに、ヒロト自身は『飽きた』とかいうくだらない理由でその思いを放り出そうとしている。
それは、負けた自分達を踏みつけにされた気がしてならなかった。
それに、Aは何となく気づいていた。
「お前、逃げたいんだろう」
「に、げるって、何から」
「父親から」
その瞬間、頬に強い衝撃が来た。
ふらついて、手を離す。
ヒロトが思わずといったような表情でこちらを見ていた。
流石に手加減はされたようだが、痛い。
ヒロトは驚いたように謝った。
「わ、悪い､､､」
「逃げるな」
Aはその言葉を無視した。殴られた事で冷静さを取り戻していた。
「もしかしたら、本当は父親から逃げているわけじゃないのかもしれない。けれど、向き合うべき事があるのは確かだ。
それは、くだらないお前のプライドを優先させてまで逃げなきゃいけないものなのか？」
ヒロトは何も言わない。
呆然としたように俯いている。
Aは、踵を返して歩き始めた。
ヒロトが慌てたように引き止める。
「おい！」
「何だ」
「､､､試合に出ろって言わないのかよ」
Aは少し考えて言った。
「言わない」
「何で､､､」
「『それ』を言うのは、私じゃないだろう」
ヒロトは迷子になった子供のような、泣きそうな表情を浮かべる。
「誰だよ､､､」
「お前が今、思い浮かべている奴じゃないのか」
ヒロトはくしゃりと顔を歪める。
「あれだけ怒っておきながら、こんなことを言うのもあれだが、お前が試合に出ないというなら、止めはしない。
でも、お前は本当にそれでいいのか、自分で考えてみろ」
今度こそ、歩き始めた。
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作者名：むめい x他1人 | 作成日時：2023年2月23日 11時
