否定 ページ4
「ここで見ていてくれ」
そう言ってAをベンチに座らせて、佐久間は練習に行ってしまった。正直言ってもう帰りたい。だが、帰るのももう面倒臭い。しょうがないので練習を見学することにした。
学園の実権を握る(誇張表現)Aがいるからか、外部入学組や一年、それと今が初対面の奴等は微妙に動きがぎこちない。
それとは対照的に、佐久間や辺見といった昔馴染みの二人は特に気にすることなく練習をしている。
「(やはり、全国一のサッカー部なだけある。素晴らしい技術だ。だが・・・)」
佐久間が指示を出しているが、緊張とは別のぎこちなさ。これは・・・
「連携が噛み合ってない・・・」
壊滅的なわけではないが、上手く連携が出来ていない。そのせいでぎこちなさが生まれてしまっている。おそらくこれは鬼道有人がいないせい。彼等が連携を取れていないのではなく、鬼道有人が指示を出すのが当たり前になっていた期間が長かったのだろう。いないギャップについていけていない。
最初はぼーっと見ているだけだったが、休憩を取ったことによって、気力が回復し彼等のサッカーにもどかしさを覚え始める。再三言うが、悪い訳では無い。だが、プレーしている彼らの上手く噛み合わない連携は見ていられない。
佐久間達が休憩に入った。少しイライラした表情で、だがそれを悟らせないようにしながらこちらに歩いてくる。
Aは、佐久間が口を開くより早く言った。
「さっきのシュートはダイレクトより、寺門に渡してから戻した方がが良かっただろう」
佐久間は面食らった表情になる。Aは意に介することなく続ける。
「あそこでパスしていたらお前のマークはより外しやすくなり、シュートを打ちやすくなっていたはずだ」
「よく・・・気付いたな。俺には分からなかった」
呆然とした表情で佐久間が言う。
「これだけ距離が離れていて落ち着いて見ていれば分かる」
佐久間が下を向いてグッと拳を握り締める。Aはああ、と察する。
「(私と一緒、か)」
ほんの少しだけ同情のような、奇妙な感情が芽生える。だがそれをすぐに振り払う。
「(私は違う。こいつとは違う。私は有人の影に囚われてなんかいない)」
「もういいだろう。練習は見させてもらった」
「あ・・・」
何かいいたげな佐久間を無視してグラウンドを後にする。佐久間の表情が頭にこびりついて、妙に不快だった。

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作者名:むめい x他1人 | 作成日時:2023年2月23日 11時