■23(大倉side) ページ23
俺はAの手首からそっと手を離すと、ぎこちなく襟足を触った。
彼女のまん丸な瞳が、まっすぐとこちらを向いている。
「･･･まあ、たまには誰かに甘えて、任せてもええやん、ていう」
一度は引き止めてしまった手前、何か格好のつく事でも言っておかなければという意識が働いた。
『甘える･･･？』
「うん。少しくらい誰かに任せたって、バチは当たらんやろ」
『───それは、』
すると、僅かに彼女の声のトーンが重くなった。
『相手に、何か思われたり･･････嫌われたり、しないですか･･･？』
「え？」
彼女からの予想外の返答に、俺はすぐに言葉を返せなかった。
"不安"というよりは、"悲しさ"に近い色がその瞳に滲んでおり、何となく彼女の中の傷のような物を察する。
いつもどこか自信が無さそうで、自分を押し殺しながら笑顔を繕っている理由が、そこにあるような気がした。
「･･････そんなん」
だが、これ以上先には深入りできない。
それが悔しくもあり、悲しくもあった。
もしこれがマルだったら、彼女の心にそっと寄り添えるような、優しい言葉で包み込めたのだろうか。
そしてまた彼女も、それを受け入れたのだろうか。
「そんなんで、自分の事嫌ったり、悪く言うようなヤツやったら、むしろこっちから願い下げやって思っとき」
『え･･･』
「誰かの楽の為だけに、Aが犠牲になるんも違うやろ」
彼女の瞳に写り込む自分が見える程、その目が大きく見開かれた。
それから、フッと小さく息を吐き出すと、彼女は小さく笑う。
その姿はあまりにか弱くて、儚い印象を受けた。
『───ありがとうございます』
そして、子鈴を鳴らしたような声でそう呟くと、彼女はそのままはにかんだ。
それに釣られて、俺の口角も僅かに持ち上がる。
この穏やかな空気感に、少しは進歩したと自惚れても良いだろうか。
少しは、先を行くマルの背中に近くなったと───。
「───今日のは貸しやから、ちゃんとどっかで返してや？」
『へ･･･！？』
目をパチクリとさせ驚くAの姿に、俺はまたひとつ笑みをこぼす。
そして、その頭をクシャクシャに撫でてから、名残惜しくも彼女の部屋を後にした。
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匿名希望 - 更新ありがとうございます！めちゃくちゃ好きです！ (2022年10月11日 1時) (
レス) @page27 id: cc9a8b8ec1 (このIDを非表示/違反報告)
匿名 - 更新ありがとうございます！続きがたのしみです◎ (2022年4月5日 4時) (レス) @page4 id: d8f1726f33 (このIDを非表示/違反報告)
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作者名：めめこ | 作成日時：2022年4月3日 17時
