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｢……長くお世話になるつもりはありません｣



きみくんに言われたばっかりだ。
信ちゃんに任せっぱなしは良くないし
いつまでも甘えて迷惑をかけるわけにもいかない。



これ以上話しても無駄だろうから
大倉さんとの話を切り上げて



近くの不動産屋にも行ってみようと
スマホを握りしめて玄関のドアを開けた。



けど、すぐ閉めた。



｢……何で、｣



見間違うわけがない。
家の前には彼がいた。



居場所を教えたわけでもないのに
何で私がここにいるって分かったの？
もしかして会社帰りにつけられてたとか？



｢A、ここにいるんだろ｣



インターホンが鳴ってドア越しに彼の声がする。



今さら何をしに来たんだろうと思う一方で
探しに来てくれたのはまだ私を好きでいてくれてるのかな、
このままやり直せるんじゃないかなんて甘い考えが浮かぶ。



｢オレが悪かったよ、もうしない｣



こんなの浮気する男が使うセリフだと分かっているのに
玄関を開けてしまう私はやっぱり男を見る目がないんだろう。



30代になると恋はするものじゃなくて
すがりつくものになっていくのかもしれない。



｢……本当にもうしない？｣

｢絶対しない。オレはAだけだから｣



伸びてきた彼の手が
いつもと同じように私を抱き寄せてくれたけど



香りは言葉以上に語るのだ。



彼の首筋から放たれる甘ったるい香りは
昨日寝室で嗅いだ香水と同じ。

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