枯れる闇 ページ15
ワニという生き物は、凶暴でなんでもかんでも食いちぎるというイメージを世の中では持たれている。その中でも、クロコダイルというワニは通常種よりも気性が荒く、何よりも幾千もの牙が顎を突き出るほど鋭く凶器じみているのが特徴だ。
そうなれば、熱帯の“ハンター”と名高いワニの名を持つ人間も当然のようにあらゆるものを食らうように支配し、自らの支柱におさめるというものだ。
人間を支配したなら、お決まりに国を支配するのは映画でも漫画でも定番の流れというもので、王を陥れ、アラバスタ王国を支配しようと動く七武海が一人“サー・クロコダイル”は、自らが建てたカジノの地下にて、玉座とはほど遠い椅子に座って葉巻の煙を吹かしていた。
「海賊なんて似合わねェだろ、お前ェには……なァ？ A」
クハハと枯れた笑いをこぼすしたクロコダイルの手には、一枚の絵が握られていた。
走り描きされているおかげで少々乱暴で掠れているが、死んだ魚のような眼と葉巻を咥えた男の顔は、どこからどう見てもAのものだ。
「十年……なんの音沙汰もなかった奴が海賊になった、と鷹の目から聞いた時には悪い冗談だと思った。今でも信じられねェ……が、これが現実だとしたらこれ以上ねェ話だ」
思い出されるのは、20年以上前の記憶。
七武海の勧誘を「バナナワニの捕獲」と言い間違えるふざけた男に、クロコダイルは怒りを覚えたが、同時に興味も引かれた。
「わざと間違えたんだ、許してくれ」と言い訳の素振りすらない謝罪をした男は、政府の役人と名乗りはしたが、当然そんなふうには見えなかった。
無造作に伸ばされた髪と髭は目の下に溜まったクマの酷さを主張し、勤務中だというのに片手には酒瓶を握る姿はまさにギャンブルに負けたオヤジのようだった。
「くそ、調子に乗って全賭けするんじゃなかった」と自責の念が聞こえたときには、マジかよこいつという目をクロコダイルが向けたほどだ。その男が、噂に聞く五老星の犬と知った時もクロコダイルは同じような視線を彼に送った。
しかし、それを知ったのは男ことAとの殴り合いが終わったあとであった。そういえばという表情で名乗った男はボーナスやら減給なんやらと嘆き、最終的には「お前の首を持っていけばなんとかならねェかな」とまで言う始末なものだから、クロコダイルは呆れ返って笑った。
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作者名：ヒロ子 | 作成日時：2022年9月22日 19時
