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剣城は何も言わなかったが、松風はただ納得した様子で笑った。
「皆！ この勢いで逆転する。勝つぞ！ 」
おぉー！
神童先輩の発破に私達は拳を上げて応えた。
試合が再開され、私は相変わらずマーカが厳しいがその包囲も先程よりは緩められていた。松風を筆頭に皆の動きが明らかに良くなっていたから私に人員を割きすぎると一気にタクティクスの起点を作られてしまうからだ。
「プレストターン！ 」
「サイド警戒！ 」
「っ、浜野！ 」
アルティメットサンダーを読まれたが既にパスの体勢に入っていた神童先輩は苦しそうに浜野先輩へとボールを蹴る。浜野先輩は機転を利かせてドリブル技を繰り出した。
「なみのりピエロ！ あーらよっと！ 」
「行かせるか──黒き翼レイブン！！ 」
「ヤバい、アイツ化身使いだったの！？ 」
キャプテンマークをつけた彼は先程まで私のマークをしていたが、いやにすんなり撒けたと思った数秒前の自分を引っ叩きたい。
オフェンスに参加しに行っただけだったんだ。私がアイツを抑えておくべきだった。自責の念がジワジワと思考を蝕む。
浜野先輩が黒い大鳥に行く手を阻まれボールを取られた。
「お前の相手は俺だ」
龍崎が私の影を踏んでピッタリと離れない。剣城はここから距離があり過ぎる。
「神童先輩！ お願いします！ 」
「ああ！ 任せろ……！ 」
神童先輩が戻ってきてマエストロを出した。化身同士がぶつかる風圧で周りの選手は立っているのがやっとの様子で、お互いのキャプテンを信じて見ている事しかできない。
そしてマエストロは神童先輩に応えてレイブンを消し飛ばした。
『神童、御門を躱した！ 』
「剣城！ 」
神童先輩から剣城へとボールが渡る。私は龍崎を抑えながらオフェンス陣が攻めるのを見届ける。恐らく私の目の前にいる彼が帝国ディフェンスの要だ。ディフェンスの司令塔がいないならアルティメットサンダー無しでも、シュートチャンスは作れる。
「この裏切り者がァーー！！ 」
「……フッ！ 」
剣城がある程度ゴール前までドリブルで持ち込むと、ボールを上へと蹴り上げた。
『剣城、ボールを高く上げたぞ！？ 』
まさか、と思ったその瞬間信助がボールへと飛びついている様子が視界に映る。
そう、剣城はずっと練習を見てた。だからアルティメットサンダーの連携も、信助の特技もちゃんと分かってる──
「ぶっとび、ジャンプ──！！ 」
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作者名：やに | 作成日時：2022年8月26日 1時
