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「私ベンチ行くから！ 試合終わったら迎えくるね」
「あぁ。連れてきてくれてありがとう。……どういう結果になっても、俺は最後まで京介と君達のサッカーを見届ける」
優一君は視線を得点板へと移す。帝国が二点先取した状況で、ホームというのも相まって観客席は帝国の応援一色だ。
「うん！ ありがとう優一君。剣城の事、応援しててね！ きっとアイツの力になるよ！ 」
「そうだな。……伝えてくれないか典子ちゃん。京介に──」
ベンチにつくや否や神童先輩の怒声が飛んでくる。
「やったな典子。いくらなんでも今回は見逃せない、試合に遅刻するなんて一体何を考えてる！ ただでさえフォワード不足なのにお前まで！！ 」
「ひエェー！！ ほんとにごめんなさーい！！ 」
私が隣にいた霧野先輩の腕にしがみつくと、神童先輩は呆れた様子で溜息を付いた。
「さっさとストレッチしてから倉間とポジションの確認しろ」
「それって試合に」
「俺は喋れって指示を出したか？ 」
「黙ってストレッチしますッ！！ わっ、とと」
若干涙目の私を剣城が横から引っ張る。
「剣城？ え、何。どこ連れてくの」
「鶏かお前は。ストレッチだろ、離れなきゃ場所がない」
「そっか、剣城も後半から参加するから──おわっ」
そのまま腕を絡められたかと思うと一瞬で体が宙に浮いた。
背筋を伸ばすストレッチだとすぐに理解するが持ち上げ過ぎではなかろうか。少し離れた場所にいる皆が逆さまに立っている様に見える。
「兄さんは」
あ、それを聞く為にストレッチに誘ってくれたのか。
「右側のあの辺にいると思う」
「右ってどこから見た右だ」
「あっち」
「東西南北を使え。何なんだその曖昧な説明は……！ まさかスロープやエレベーターがない様な、一人じゃ帰れない場所に連れて行ってないだろうな」
「どうやっけ？ あ……いや、その。試合が終わったら迎えに行くっては伝えたから……」
「……」
「……」
無言の圧が怖い。
「……おい」
「ん？ 」
「試合に出るなら変な気起こすなよ」
「変な気って、私は本気でサッカーするだけだよ。……ちょ、つ、剣城さーん？ そろそろ交代してもらっても……？ 首、首が」
限界を訴えると素直に彼は私の足を地面に落とした。今度は私が剣城を持ち上げると一秒も待たずに腕を解いて半ば逃げる様にして個人で出来るストレッチを始めやがった。クッソー……仕返ししようとしたのバレたか……。
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作者名：やに | 作成日時：2022年8月26日 1時
