..12 ページ12
.
一松が目を覚ましたのは、その日の夜になってからのことだった。
頭がズキズキと痛み、ついでに腕に激痛が走る。
恐る恐る袖をめくってみれば、腕には何やら引き裂かれたかの様な生々しい傷があった。
ただ、血は全く出ていない。こんなにぱっくりと開いているのに。触ればこんなに痛いのに。
不思議に思いながら、彼は部屋を出た。
その足は自然と教会に向き、中に入れば人が寄ってきた。
彼らは何やら困った顔で話しかけてくる。
相談事か、悩み事か懺悔か後悔か。
いつもの彼なら逃げていた。呼吸が乱れて、パニックになっていたはずだった。
しかし、今日は違った。
優しげな笑みを浮かべて、其の人達の話を順に聞いては解決策を上げていく。
其れを見た両親は、驚いた様な顔を見せつつ、表情に歓喜の感情が現れていた。
其の人達は、シスターの優しげな言葉に、丁寧な話に、謙虚な姿勢に満足し、穏やかな笑顔で帰っていく。
「お気をつけてお帰り下さいね」なんて微笑む一松の瞳の奥は冷めきっていた。
彼を追い出す話は破棄、寧ろ誰よりも出来る様になったシスターに皆甘くなった。
優しくて、今まで弟達に、兄さんに向けられていた期待が自分に向いているのがわかった。
部屋に戻った一松はベールを剥ぎ取ると床に叩きつけ、吐き捨てるように言う。
一「彼奴らなんか、大嫌いだッ…!!」
修道着を乱暴に脱ぎ捨てると、髪の毛を強く強く掻き毟る。
半分奇声のような声を上げながら風呂場に向かうと、半狂乱のままお湯の張られた湯船に顔を突っ込んだ。
水しぶきが上がって、彼の髪が水面で揺れる。
お湯は容赦なく一松の体に入り込み、空気を奪う。
「ぐっ」と苦しそうな声を上げて湯船から顔を振り上げた。
お湯が髪から顔を伝い、床にポタポタと滴る。
一「……傷が、頭が、痛い…………ッ!
おかしくなる……!!
彼奴らの態度も!人間どもの話も!
気持ち悪い気持ち悪い気持ち悪い!!
俺に触れるな俺に話しかけるなもう近づくな嗚呼__________!」
治らない頭痛で、痛む傷で狂いそうだった。
最初はただそれらが痛むだけ。
だが次第に、彼は自分の周りの人間が憎くなった。
今まで散々酷い事を言ってきたあの口から出てくる甘い言葉が、彼をより苦しめた。
一「彼奴ら、彼奴らが皆々いなくなれば俺は、楽になれるんだ…!
もう、誰にも会いたくない、皆死ねばいい…」
神「その言葉は本当か?」
4人がお気に入り
感想を書こう!(携帯番号など、個人情報等の書き込みを行った場合は法律により処罰の対象になります)
おそ松さんgirl(プロフ) - みくさん» ありがとう!頑張る!! (2018年6月3日 23時) (レス) id: 1f58a69c9c (このIDを非表示/違反報告)
みく(プロフ) - 面白いよ!更新頑張ってね! (2018年6月3日 23時) (レス) id: 7f167612e6 (このIDを非表示/違反報告)
作品は全て携帯でも見れます
同じような小説を簡単に作れます → 作成
この小説のブログパーツ
作者名:松壱 | 作成日時:2018年5月20日 12時