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男の目の前に立つ。

男は顔を上げた。

「おや、キレイな方だな。名は何ていうのかい」

「百合よ。あなたは?」

男は微笑む。

底がよめない笑み。

「カイ。仕事上の名だ」

百合はカイの隣に座る。

「あなたに用があって来たの」

「なんだい?」

百合は少し目を落とす。

「お金を貸してほしくて」

「無理だ」

スパッと断られ百合は目を上げ、カイの目を見つめた。

「キスまでだったら、やってあげてもいいわよ?」

これは最終手段だった。

まさか、いきなり使うことになるとは…。

男は「ハハッ」と声をだした。

「遠慮するよ」

「何故?」

ここでカイは予想外過ぎる答えを言った。

「私は女には興味はないんだ」

「え…。まさか、男が恋愛対象だなんて言わないわよね?」

「半分は正解だ。私はまず、恋愛はする気はない。そこが不正解の部分。私は男を可愛がるのが好きなのだ。これが正解の部分」

頭の中がこんがらがってきた。

ますます分からない。

「男と言っても誰でもいいわけではない。私が好むのは、若くて弱々しくて人と話すのが苦手な男」

カイは申し訳なさそうに眉を下げる。

「だから、君の誘いは断るよ」

「…そう」

カイはガタッと立ち上がる。

トサッ

何かがカイの服から落ちた。

見ると、分厚い札束だ。

カイは拾う。

「次来たときの予約をしてくるから席を少々外すよ。すぐに戻ってくるが…」

「いえ。私ももう行くわ」

「そうか。さよなら」

「さよなら」

百合は店から一旦出た。

來夢は絶句していた。

キレイな女性には、男は弱いものだと思ってた。

なのに、あの人は違った。

皆が皆そうじゃない。

來夢も興味がない。

さて、どうするか。

どんな手を使ってもっていうつもりだったから、キスまで頑張ろうと思ったのに。

カイは断った。

でも、このままひけない。

あの人は確かにお金を持っている。

落として拾うのをみた。

もう一度、行こう。

今度はカイが言った好む人になりきって…。

百合の弟、という設定にしよう。

カイが言ったタイプは來夢とまったく被っていたが、演技をした方が安心できる。

犬みたいな男を想像して…。

來夢は店の扉をもう一度開く。

カイに近づいた。

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作者名:みあゆい | 作成日時:2019年12月6日 17時

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