おはよう【牛島若利】 (ページ10)

今日:1 hit、昨日:0 hit、合計:42,546 hit

10 ページ10

.

美術部に頼むのにもってこいの案件。

私にこだわっているからもっと違うものかと思った。

私にしか頼めない何かかと。

｢それなら、私じゃなくても良かったんじゃ？｣

美術部ならポスターくらい誰だって描ける。

個性による描き方の違いやデザインの違いは出ると思うけど、それでもみんな描ける。

私にこだわらなくても良いはず。

｢そうかもな｣

あっさりと、いつもの無表情でそう言った。

でも、と彼は続ける。

｢俺はお前に描いてほしかった。だからお前を探した｣

｢いや、なんで……｣

答えになってないんですけど……。

彼は｢前にも言わなかったか？｣と少し首を傾げる。

｢好きなんだ｣

え…………？

ただ真っ直ぐそう言われ、心拍数が上がる。

｢お前の絵が好きだから、その絵を描く今泉Aに描いてほしかった｣

｢ああ！そういうことね！｣

か、か、勘違いするところだった。

恥ずかしすぎるー！！！

｢そう言えばそんなこと言ってたね！｣

動揺から自然と声は裏返り早口になる。

彼の頭の上には？が浮かんでいるから余計に恥ずかしい。

｢か、描けばいいんでしょっ？｣

なぜか喧嘩口調。

｢ああ、頼む｣

勘違いして声裏返って、早口になった挙句喧嘩口調。

何か一つが当てはまればすぐに顔を赤くする私だから、全てあてはまった今は真っ赤なんだろうな。

そう思うととてもじゃないけど彼を見れない。

｢描くってなるとさ｣

強ばった声が自分の耳に届く。

何故なのかは自分にも分からない。

｢バレーしてる姿見せてもらわないと、上手く描けない｣

｢そうか、わかった。顧問に聞いておく｣

｢うん、お願い｣

あっさりした会話。

再び沈黙が始まるかと思えば彼は歩き始める。

考える間もなく答えは出てくる。

そう言えば今は朝で、ホームルーム前だ。

教室に行くのは当然だ。

数歩歩き立ち止まったかと思えばこちらを振り返る。

｢行かないのか？｣

彼の歩幅は大きくて、数歩歩いただけなのにもう数段階段を降りている。

視線より少し下にいる彼を見るのは新鮮で、どこかドキドキしてしまっている自分がいる。

｢行く……！｣

教室まではそんなに距離はない。

それでも彼が歩幅を私に合わせてくれたため、想像よりも少し長くて、でもやっぱり短くて。

｢またな｣

なんて別れ際に言ってくるもんだから、私の頬は情けなく緩んでしまった。

.