天下の双黒様だって彼女様には敵わない 【双黒/短編集】

# ページ33

「…」

ギィと扉を開け挨拶無しで入ってくる此奴にはぁとため息を零す。
おいおい、手前は幽霊かなんかなのかよ。
一度文句を言ってやろうと思ったが、嗚呼そういや此奴コミュ障だったなと思い出す。
こいつのコミュ障を治るのは随分と先になりそうだ。

「…挨拶は」

ビクリと肩を揺らす兎月。

「っおっ、おは、おはようごじゃいましゅ…」

回らぬ舌を懸命に回し挨拶をする此奴。此奴の瞳には矢張り涙が溜まっている。
まぁこれでも此奴からすると頑張った方なのだろう。

「ん」

頑張ったな、そんな意味を込めて此奴の頭を撫でた。
しかしびくびく怯える此奴。
嗚呼、俺は世界の真ん中で声を大にして言ってやりたい。
俺ってそんなに怖いかと。

黙々と書類仕事をこなしている俺。
兎月は落ち着かなさそうにきょろきょろ辺りを見渡している。
何をやればいいのか分からないのだろうか。
少し部屋が汚れているから掃除を頼むか…と思ったがいや、よく思い出せ昨日の俺。
昨日氷を取りに行ったとき皿を割っていたじゃないか。皿だけならまだいいがマグカップまで。
此奴は何なら出来るんだ。書類仕事はダメ。珈琲も一人ではまともに入れれない。掃除も無理。
はぁ、とため息が出てきた。嗚呼、もう。怒りを通り越して呆れてきた。
けど、何処か心の中で愛くるしいという気持ちがあるのはきっと気のせいであろう。

「…兎月」

俺はタンッと軽快な音を立ててエンターキーを押した。すると印刷機が動いて俺が纏めていた
書類が印刷されて出てくる。

「この書類を芥川に渡しといてくれ」

俺はそう言って書類を兎月の手に渡すときにさり気なく、腕の裾部分に盗聴器を付けた。
俺は戸惑っている兎月を強引に押し部屋の外に出すと同時に俺はちと休憩という名の
「兎月、初めてお使い(？)〜ポートマフィア編〜」で無事書類を渡せるか盗聴器で聞くことに。
俺はベットに座って足を組みヘッドホンを耳に付けた。

≪…っ…ど、どうしよぅ…≫

語尾が弱まっていることからよほど困っているのだと理解できた。

≪、あきゅっ、芥川って誰…≫

…おいおい、芥川を知らないやつがいるとはなぁ。
指名手配犯だぞ、彼奴。どんだけ世間知らずなんだよ。
何だ、どっかの箱入り娘のお嬢様だったのか？

はぁ、と何度目かの溜息が部屋に響き渡った。

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