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ニーナ - 7 ページ7

side : izw




「………私が悩んでた時、助けてくれたのは伊沢じゃないでしょ。」





頭を鈍器で殴られたかのようだった。


その上で腹に蹴りを食らったかのような、そんな衝撃だったのだ。




大学4年の最中。大学院への進学を果たすべく勉強にかかりきりだった俺は、就活中のAを知らない。




夢があると言っていた。


ある企業に就職してとにかくやりたいことがあると幼児のように語っていたAの目は、未だはっきりと覚えている。



そして俺は、特に何を疑うでもなくその夢を叶えたのだとばかり思っていて。


迎えた卒業式の日、未だ明るく笑うAと少しだけ話をして。




────Aが何かに悩み、怯えていることなど少しだって知らず。






「………」






数秒、いや数十秒。俺は言葉も出せずに黙っていた。




……確かに、確かにそうだ。


Aの悩みに気付き、寄り添っていたのは俺じゃない。俺が間違っていると非難し、そして離れるべきだと言う彼氏の方である。



俺が彼女らに口を出すのもお門違い。


友人だからと出しゃばるには些か不相応。


俺の中のAが理想たる人間だったとて、Aの中の俺は単なる大学の同期に過ぎないのだ。







「………俺は、お前にそんな顔させたいわけじゃなくて。」







唇を噛む。


Aは、あの朗らかに笑っていたAは。




未だ俺の中で生き続けていると言うのに。








「………、お前の、助けになりたい。」







Aの笑い方が好きだった。


口角を緩めて目尻を下げ、僅かに首を右へ傾けるあの独特の笑い方。周りをも巻き込む笑い声。



一目見て笑顔が素敵な子だと思ったし、あれは写真やビデオで残るものじゃないとまで感じた。この目で直接焼き付け、それが一番映える笑い方だ。



それがどうだ。ああも毎日笑っていたAには固い表情が張り付き、凝り固まった顔で俺を睨んでいる。




もういくらだって嫌って良い。俺のことは構わない。


けれども、彼女自身が苦しいのなら助けになりたいと思うのが普通だろう。





厚い化粧も派手な服もネイルも、もう無理して纏わなくたって。







「………」







Aは押し黙っていた。


俺も何も言わなかった。





それから幾つが経っただろう。じっと俺を見ていた彼女は、そっと静寂を破って。









「…………なら、私を買って。」








相変わらずの、凝り固まった苦しい表情でそう言った。






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r(プロフ) - コメント失礼いたします。ひっそりと『マリア・テレジアへ賛美歌を』のAルート/Bルートお待ちしております……! (2022年5月8日 13時) (レス) id: 4f9004a1a0 (このIDを非表示/違反報告)
まるまいん - はじめまして、本日初めて作品を知りシリーズを最初から最後まで全て読ませていただきました。登場人物のリアリティー、簡潔ながらわかりやすい描写と気になるストーリー構成、どれもとても魅力的でした。続きも楽しみにしております。 (2022年4月25日 4時) (レス) id: 3aac2cf622 (このIDを非表示/違反報告)
みゃお - 初めてコメントします!どのお話も本当に引き込まれて大好きです…!ラブレターには名を記せの続編がどうしても読みたいので、いつか書いていただけたらと思います。よろしくお願いいたします! (2022年4月18日 0時) (レス) @page21 id: d140b06251 (このIDを非表示/違反報告)
ねこ - 更新されていてびっくりしました…! これからも応援させて頂きます。 (2022年4月1日 0時) (レス) id: db21360bfa (このIDを非表示/違反報告)
(プロフ) - 良質な読みものに心臓がドカドカする感覚をものすごく久しぶりに味わって感動しています…これからも楽しみにしています!!どうかご無理はなさらず!! (2022年3月31日 0時) (レス) @page33 id: 86acd73901 (このIDを非表示/違反報告)

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作者名:290円 | 作成日時:2020年10月24日 6時

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