いたずらっ子 ページ5
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私の微妙な気持ちを知ってか知らずか、徹夜で作業をしていたはずなのに妙に元気な山本くんは言葉を続ける。
「でもAさんって全然30歳って感じしませんよね。若いって言うか」
「……無理しないでいいよ。」
年下に気を使われている事実が虚しくってそう言えば、あははと笑った山本くんに「ほんとですって!」と返される。気遣いが余計悲しいな。
───30を間近に控えた私は、見た目は勿論のこと、最近だとそれこそ徹夜ができなくなっているのが老いとして顕著である。
そう考えると徹夜明けでお世辞まで言えちゃう山本くんの若さが素直に羨ましい。……ごめんね、仕事の邪魔しちゃって。
「……でもAさんと伊沢さんも30歳かあ。早いなあ」
次いで飛び出た伊沢の名。そりゃ誕生日が同じなのだから引き合いに出されてもおかしくないのだけれど、あまりにも気まずい名に私は苦笑いを返すことしかできなかった。
……早い、早いか。そりゃそうだ、私だってそう思わざるを得ない。
3年前のあの日は30になったら流石に結婚くらいしているだろうとすら思っていたのに、今じゃこのザマだ。3年前と何も変わりやしない。
その上相手すらおらず、伊沢が冗談で口にしたあの約束を悩みの種としている始末。情けないにも程がある。
「山本くんもすぐ30になるよ。来年辺りから徹夜なんてできなくなるから」
「あはは、そうかも。何なら今もちょっとキツいですもん」
……とは言うけれど、山本くんは数年前から見た目も全く変っちゃいないんだもんなあ。
元々童顔っぽいし、これで彼が四捨五入したら30歳だなんて信じられない限り。まだ大学生に見えるもの。
と、まじまじと彼の顔を見ていれば、視線を感じたのか山本くんがこてと首を傾げてこっちを見た。
慌てて何でもないと首を横に振る。若くて羨ましいだなんて言えない、それこそ年寄りの発言だ。
「……あ、そうだ。そういえば、」
山本くんがパンとひとつ手を叩く。見やった彼の顔はまた随分と楽しそうで、いくらああ言っても有り余る若さが羨ましく。
あまりにも年寄り臭くなった自分に引きつつ首を傾げてみる。
それを見た山本くんは、何だかいたずらっ子のような顔で少しだけこっちに身を乗り出して。
「Aさん、あの、」
ちょっとだけ熱の混じった彼は、更にぐいと身を乗り出し。
「僕と結婚してください。」
………。
「は?」
……いや、この人何言ってんの?
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霞(プロフ) - すごく好みの雰囲気です…。更新楽しみに待ってます!!頑張ってください (2021年2月23日 23時) (レス) id: 15ecf1a3d4 (このIDを非表示/違反報告)
オレオ_ッピ推し(プロフ) - 何この話どタイプ……気長に更新を待ちます。( ºωº ) (2020年11月5日 1時) (レス) id: dfcf88994a (このIDを非表示/違反報告)
りんご(プロフ) - 私も大好きです…更新楽しみにしてます( ^ω^ ) (2020年10月29日 21時) (レス) id: cb54059665 (このIDを非表示/違反報告)
こあら(プロフ) - 何これ好きぃ……………… (2020年10月19日 8時) (レス) id: df8e2a19f1 (このIDを非表示/違反報告)
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作者名:290円 | 作成日時:2020年10月9日 19時