5月15日 水曜日 ページ3
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────5月15日の朝。頭に響くアラームの音がうざったくて、私は目を覚ました。
「………ぅ゛、…」
……もう29歳ともなると流石に朝がキツい。昨日飲んだ酒もまだ残っているし、身体の節々が痛い気さえしてきた。……これが老いか。
ひとまずベッドから抜け出し、重いし痛い頭を抑えつつ洗顔を。タオルで雑に顔を拭き、やっと頭が冴えてきたところでテレビを付けた。
現在の時刻は5時0分。ちょうど朝のニュース番組が始まり、おはようございますと綺麗なアナウンサーが頭を下げる。
『5月15日 水曜日、5時を回りました。今日のニュースは──』
丁寧に日付と曜日まで教えてくれるアナウンサーに眉を寄せた。
……そう、今日の日付は5月15日。何を隠そう、私と伊沢の誕生日の前日である。
明日で私は遂に20代を卒業し、30代へと足を踏み入れる。
別にもう年を取るという自然の摂理に文句は言わないけれど、それを抜きにしたって私は明日が憂鬱であった。
───約3年前の5月16日、伊沢が勝手に結びやがったあの約束。『30になるまで相手がいなかったら結婚する』。
もちろんあの当時、私と伊沢は付き合っていたわけじゃない。何なら一途に想い合っていたわけでもなく、本当にただの友人で。
……案の定というかなんというか、あの時から現在に至るまで、私には結婚を考える『相手』がいない。
というか伊沢だって相当酒が入っていたはずなのだ。本気じゃないことくらい一目瞭然なのに、あんな約束しやがった伊沢が憎い。
……いやわかる、大いにわかる。その本気じゃないことが一目瞭然な約束にいちいち悩まされているのがおかしいことは、本当にわかっている。
ただ困ったことに相手はあの伊沢だ。冗談を冗談で終わらせないタチがあるあいつは、流石に本当に結婚はせずともひとつ面倒なことをしてくるはずで。
本当にそれだけがヤバイ。約束を盾に面倒な何かしらのムーブをかましてくるであろうことが一番憂鬱で、なおかつ非常に嫌だ。逃げたい。
───とはいえ残念なことに今日は仕事。何なら先週から約束のことで頭がいっぱいで仕事を溜めており、消化のために早朝からオフィスに向かわねばならない。
「……はーー………、」
大きな大きなため息をひとつ、どこへやっていいかもわからない感情に任せて吐いた。
テレビの中のアナウンサーは綺麗な声でニュースを読んでいる。私の暗いため息が更に淀んだ気がして、何だか悲しくなった。
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霞(プロフ) - すごく好みの雰囲気です…。更新楽しみに待ってます!!頑張ってください (2021年2月23日 23時) (レス) id: 15ecf1a3d4 (このIDを非表示/違反報告)
オレオ_ッピ推し(プロフ) - 何この話どタイプ……気長に更新を待ちます。( ºωº ) (2020年11月5日 1時) (レス) id: dfcf88994a (このIDを非表示/違反報告)
りんご(プロフ) - 私も大好きです…更新楽しみにしてます( ^ω^ ) (2020年10月29日 21時) (レス) id: cb54059665 (このIDを非表示/違反報告)
こあら(プロフ) - 何これ好きぃ……………… (2020年10月19日 8時) (レス) id: df8e2a19f1 (このIDを非表示/違反報告)
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作者名:290円 | 作成日時:2020年10月9日 19時